
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第1章 邂逅~めぐりあい~
だが、既に時間は午後三時を回っている。莉彩との約束の時間は二時半だった。莉彩の性格からして、この時間になって待ち合わせ場所に来ていないことは考えられない。
慎吾は取るものもとりあえず、待ち合わせ場所の橋のたもとへ向かった。しかし、そこにも莉彩の姿はなかった。
慎吾は夏でもないのに、背中に冷たい汗が滲むのを感じた。莉彩は危機一髪で車に轢かれるところだった。それを考えれば、むしろ、自分が見たあの怖ろしい光景が夢であった方が都合が良いのは判っている。
でも―。慎吾には何故か素直に歓べなかった。
あれは断じて夢などではない。紛れもない現実のはずだ。だとすれば、莉彩は一体、どこに行ったのだろう。
安藤莉彩が突如としてこの世から姿を消した―後に〝高一少女、謎の行方不明〟とニュースや新聞でも取り上げられた失跡事件の始まりだった。
後にその時、セダンを運転していた初老の男も警察で事情を聴取されることになったものの、彼の言い分もまた
―道を横切ろうとして車の前に現れた少女が忽然とかき消すように姿を消した。
と、その一点張りだった。
警察から任意出頭を求められるまで、その男性は少女があまりにも劇的に消えてしまったので、慎吾同様、悪い夢を見たと思い込んでいた。
事件の目撃者はたった二人、セダンを運転していた男と失踪した少女のボーイフレンドだという少年だったが、やはり、彼も莉彩が眼の前で突然、いなくなったのだと語った。
―まるで空間が割れて、その隙間にすっぽりと吸い込まれてしまったような感じでした。
真顔で語った少年は、当初、警察では正気を疑われ、挙げ句に彼が少女拉致もしくは誘拐と拘わりあるのではと疑われもしたが、後に彼は事件とは無関係だと証明された。SFを読み過ぎの妄想癖のある少年のたわ言で片付けることはできなかった。何しろ、彼ともう一人、分別盛りの大人が同じことを供述しているのだから。
警察では多数の捜査員を動員して安藤莉彩の捜索が続けられたが、数日を経ても依然として少女の行方は判らずじまいだった。
十月半ばの薄曇りの日の出来事で、その夜はまるで空が泣くように雨が降り始めた―。
慎吾は取るものもとりあえず、待ち合わせ場所の橋のたもとへ向かった。しかし、そこにも莉彩の姿はなかった。
慎吾は夏でもないのに、背中に冷たい汗が滲むのを感じた。莉彩は危機一髪で車に轢かれるところだった。それを考えれば、むしろ、自分が見たあの怖ろしい光景が夢であった方が都合が良いのは判っている。
でも―。慎吾には何故か素直に歓べなかった。
あれは断じて夢などではない。紛れもない現実のはずだ。だとすれば、莉彩は一体、どこに行ったのだろう。
安藤莉彩が突如としてこの世から姿を消した―後に〝高一少女、謎の行方不明〟とニュースや新聞でも取り上げられた失跡事件の始まりだった。
後にその時、セダンを運転していた初老の男も警察で事情を聴取されることになったものの、彼の言い分もまた
―道を横切ろうとして車の前に現れた少女が忽然とかき消すように姿を消した。
と、その一点張りだった。
警察から任意出頭を求められるまで、その男性は少女があまりにも劇的に消えてしまったので、慎吾同様、悪い夢を見たと思い込んでいた。
事件の目撃者はたった二人、セダンを運転していた男と失踪した少女のボーイフレンドだという少年だったが、やはり、彼も莉彩が眼の前で突然、いなくなったのだと語った。
―まるで空間が割れて、その隙間にすっぽりと吸い込まれてしまったような感じでした。
真顔で語った少年は、当初、警察では正気を疑われ、挙げ句に彼が少女拉致もしくは誘拐と拘わりあるのではと疑われもしたが、後に彼は事件とは無関係だと証明された。SFを読み過ぎの妄想癖のある少年のたわ言で片付けることはできなかった。何しろ、彼ともう一人、分別盛りの大人が同じことを供述しているのだから。
警察では多数の捜査員を動員して安藤莉彩の捜索が続けられたが、数日を経ても依然として少女の行方は判らずじまいだった。
十月半ばの薄曇りの日の出来事で、その夜はまるで空が泣くように雨が降り始めた―。
