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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第6章 契り

「殿下、私は」
 口を開きかけた莉彩の顔を両手で挟み込み、王がその花のような唇を奪った。
 しっとりとした感触の後、唇は一旦は離れた。
「莉彩、口を開いてくれ。せめて唇だけでも私を受け容れて欲しい」
 かすかに開いた莉彩の唇の隙間から、王は舌を挿し入れる。逃げ惑う莉彩の舌に熱い舌が絡み、濃厚な口づけが続いた。
 唇は離れたかと思うと、またすぐに角度を変えて重なった。唾液と唾液が混じり合い、互いの温度が高くなる。
 これほどの深いキスを莉彩はまだ一度も経験したことはなかった。大体、初めてのキスそのものが王と十年前に交わしたときで、あれ以降、王以外に唇を許した男はいなかったのだ。
 だが、今回のキスは最初とは比べものにならないほど熱く濡れていた。
 あまりにも延々と続く口づけに、莉彩が息苦しさにむせた。
 小さく咳き込む莉彩が胸を押さえていると、王が薄く笑った。
「莉彩は初(うぶ)なのだな。口を吸うときは、ほら、こうやって鼻で息をするのだ」
 〝もう一度、やってみよう〟、王のいつになく濡れた声が耳許で囁き、莉彩はその吐息が耳朶に触れる感触に、妖しい得体の知れぬ震えが走るのを感じた。
 それは莉彩が初めて感じる不思議な感覚だった。
 戸惑う暇もなく、再び王の顔が近づき、唇が重なる。今度は教えられたとおり、鼻で息を吸うようにしたので息苦しさはあまり感じない。
 再び唇が離れた後、王が呟いた。
「今は何も言うな」
 莉彩の眼から、ほろりと涙が落ちる。
「どうした、やはり、厭だったのか?」
 王が愕いたように眼を見開き、かすかに眉を寄せた。
 莉彩は涙を零しながら、それでも無理に微笑みを浮かべようとする。
「私、何て言ったら良いのか判らないけれど、でも、幸せで―」
 王は笑みを返そうとはしなかった。その代わりに莉彩に近づき、大きな手を伸ばして髪に触れる。
「莉彩は相変わらずねんねだ。見かけは見違えるほど大人びたし、口づけは十年前より上手くなったのにな」
 王の声が優しく囁きかける。

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