
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第6章 契り
「洗濯物のことではありません。私が綺麗になったと言ったのは、そなたのことですよ」
淑妍は莉彩を改めて見つめ、婉然と微笑した。
「しばらく見ぬ中(うち)に、随分と臈長けたこと。これなら殿下もお歓びでしょう」
一人で納得したように頷く。そのやわらかな面には満足げな表情が浮かんでいる。
何故か、莉彩はその時、違和感を憶えた。
これまで自分が知る淑妍とは全く違う一面を見たような気がしたのである。では何がどう違うのかと問われたとしたら、上手く応えることはできなかったろう。しかし、明らかに何かが違っていた。
「少し時間が欲しいのですが、そなたの部屋に行きましょう」
「あの。洗濯が終わったら、今度は廊下を拭かなければならないのです」
控えめに言うと、直属の上司である崔尚宮にはちゃんと話をしてあるからと淑妍が言う。ここで立ち話ができないほど大切な―或いは誰かに聞かれてはまずい内容なのかと咄嗟に思い、素直に淑妍の言葉に従った。
部屋に戻ると、莉彩は手早くお茶を淹れた。
他ならぬ淑妍から教わった、あの香草茶である。
淑妍は、香草茶をひと口飲み、また満足げに微笑んだ。
「お茶の淹れ方も上達しました。私がそなたに教えることは、もう何もないようです」
「そんな―。私など、本当にまだまだ宮殿のしきたりもろくに知らない未熟者です」
謙遜などではない。元々、この時代の人間ではなく、ましてやこの国の民でもない莉彩には、まだまだ未知のことが多すぎた。見かけだけは一応、後宮女官だが、内実は、ついひと月前まで二十一世紀に生きていた現代女性なのだから。
「そなたは聡明で、心映えも優れている。知らぬことは知っていけば良い。時が自ずと解決してくれることでしょう」
淑妍は事もなげに言うと、莉彩を真っすぐに見つめる。
「今日、入宮したのは、そなたを訪ねるためです。是非、折り入って話したいことがあるのですよ」
「それは―」
物問いたげな莉彩に、淑妍は頷いた。
「そなたを孫(ソン)大(テー)監(ガン)の養女にしようと考えているのです」
「私を孫大監の?」
莉彩は愕きに言葉を失った。
淑妍は莉彩を改めて見つめ、婉然と微笑した。
「しばらく見ぬ中(うち)に、随分と臈長けたこと。これなら殿下もお歓びでしょう」
一人で納得したように頷く。そのやわらかな面には満足げな表情が浮かんでいる。
何故か、莉彩はその時、違和感を憶えた。
これまで自分が知る淑妍とは全く違う一面を見たような気がしたのである。では何がどう違うのかと問われたとしたら、上手く応えることはできなかったろう。しかし、明らかに何かが違っていた。
「少し時間が欲しいのですが、そなたの部屋に行きましょう」
「あの。洗濯が終わったら、今度は廊下を拭かなければならないのです」
控えめに言うと、直属の上司である崔尚宮にはちゃんと話をしてあるからと淑妍が言う。ここで立ち話ができないほど大切な―或いは誰かに聞かれてはまずい内容なのかと咄嗟に思い、素直に淑妍の言葉に従った。
部屋に戻ると、莉彩は手早くお茶を淹れた。
他ならぬ淑妍から教わった、あの香草茶である。
淑妍は、香草茶をひと口飲み、また満足げに微笑んだ。
「お茶の淹れ方も上達しました。私がそなたに教えることは、もう何もないようです」
「そんな―。私など、本当にまだまだ宮殿のしきたりもろくに知らない未熟者です」
謙遜などではない。元々、この時代の人間ではなく、ましてやこの国の民でもない莉彩には、まだまだ未知のことが多すぎた。見かけだけは一応、後宮女官だが、内実は、ついひと月前まで二十一世紀に生きていた現代女性なのだから。
「そなたは聡明で、心映えも優れている。知らぬことは知っていけば良い。時が自ずと解決してくれることでしょう」
淑妍は事もなげに言うと、莉彩を真っすぐに見つめる。
「今日、入宮したのは、そなたを訪ねるためです。是非、折り入って話したいことがあるのですよ」
「それは―」
物問いたげな莉彩に、淑妍は頷いた。
「そなたを孫(ソン)大(テー)監(ガン)の養女にしようと考えているのです」
「私を孫大監の?」
莉彩は愕きに言葉を失った。
