
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第6章 契り
宮仕えをするに当たり、莉彩は臨尚宮の養女になっている。莉彩当人としては、それで十分だと思うのだが、何故、この上、面倒な手続きを踏んでまで孫大監の養女にならなければならないのか。
莉彩の疑問を淑妍はすぐに読み取ったようだ。
「孫大監はこの十年間、左議政として朝廷においても重きをなされ、国王殿下の信頼も厚い重臣中の重臣です。若い頃から生き馬の眼を抜くといわれる宮廷で幾度もの政変を生き抜き、今日の地位と名声を勝ち得たお方ですから、そのような方の養女となって、そなたに損はないでしょう」
「ですが、私は既に臨尚宮さまの娘にして頂いております。何故、今になって、孫大監の養女になる必要があるのでしょうか。お言葉を返すようではありますが、一介の女官には分不相応ことではないかと思います」
莉彩が控えめに自分の気持ちを述べると、淑妍は頷いて見せた。
「確かに、そなたの疑問はもっともですね。しかしながら、もし、そなたが一介の女官で終わるはずのない身だとすれば、どうしますか?」
質問に質問で返され、莉彩は絶句した。
「尚宮さまの仰せの意味が判りかねます」
「莉彩、これから私がする話は、絶対に他言してはなりません」
淑妍の表情が変わった。これまで一度として見たことのない―まるで別人のような、きりりとした隙のない顔だ。
莉彩が知る限り、淑妍は柔和で穏やかな表情の似合う家庭的な雰囲気の女性だった。そういえば、いつか王が言っていた。
―乳母はあれで、なかなか油断ならぬところがある。私には母代わりとなってくれた優しい乳母であったが、実は海千山千の女傑なのだぞ。
淑妍さまもこのようなお顔をなさるのだ。
その時、莉彩は初めて王の言葉の真実を知った。
「金(キム)大妃(テービ)さま(マーマ)と国王(チユサン)殿下(チヨナー)のおん仲が芳しくないのは、そなたも存じておりましょう」
「はい」
莉彩の中で厭な想い出が甦る。十年前、王の寵愛を受けて驕っていると突如、大妃に呼び出され、鞭で脚を打たれたことがあった。
全く身に憶えのない中傷であったが、莉彩は大妃に鞭打たれた傷が悪化、化膿して一時は生死の淵をさまよったのだ。大妃に対して良い印象を抱いているはずがなかった。
莉彩の疑問を淑妍はすぐに読み取ったようだ。
「孫大監はこの十年間、左議政として朝廷においても重きをなされ、国王殿下の信頼も厚い重臣中の重臣です。若い頃から生き馬の眼を抜くといわれる宮廷で幾度もの政変を生き抜き、今日の地位と名声を勝ち得たお方ですから、そのような方の養女となって、そなたに損はないでしょう」
「ですが、私は既に臨尚宮さまの娘にして頂いております。何故、今になって、孫大監の養女になる必要があるのでしょうか。お言葉を返すようではありますが、一介の女官には分不相応ことではないかと思います」
莉彩が控えめに自分の気持ちを述べると、淑妍は頷いて見せた。
「確かに、そなたの疑問はもっともですね。しかしながら、もし、そなたが一介の女官で終わるはずのない身だとすれば、どうしますか?」
質問に質問で返され、莉彩は絶句した。
「尚宮さまの仰せの意味が判りかねます」
「莉彩、これから私がする話は、絶対に他言してはなりません」
淑妍の表情が変わった。これまで一度として見たことのない―まるで別人のような、きりりとした隙のない顔だ。
莉彩が知る限り、淑妍は柔和で穏やかな表情の似合う家庭的な雰囲気の女性だった。そういえば、いつか王が言っていた。
―乳母はあれで、なかなか油断ならぬところがある。私には母代わりとなってくれた優しい乳母であったが、実は海千山千の女傑なのだぞ。
淑妍さまもこのようなお顔をなさるのだ。
その時、莉彩は初めて王の言葉の真実を知った。
「金(キム)大妃(テービ)さま(マーマ)と国王(チユサン)殿下(チヨナー)のおん仲が芳しくないのは、そなたも存じておりましょう」
「はい」
莉彩の中で厭な想い出が甦る。十年前、王の寵愛を受けて驕っていると突如、大妃に呼び出され、鞭で脚を打たれたことがあった。
全く身に憶えのない中傷であったが、莉彩は大妃に鞭打たれた傷が悪化、化膿して一時は生死の淵をさまよったのだ。大妃に対して良い印象を抱いているはずがなかった。
