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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第6章 契り

この愛妃の死もまた徳宗が大妃に対して深い恨みを抱く因となっていることは言うまでもない。
 王が積年の夢を実現し、身分に拘らず人材を選ぶためには、まず突破口を作らねばならない。今の朝廷はおよそ三分の二を保守派が占め、残りが王の信頼できる廷臣―つまり下級貴族出身の有能な人材である。
 王はいずれ、朝廷から保守派を一掃したいと願っていた。だが、目下のところは、大妃を頂く保守派の方がいかにせん朝廷で幅をきかしているというのが実状だ。
 淑妍は、今の朝廷の内情を莉彩にも判り易くかいつまんで説明した。
「畏れ多いことを承知で申し上げますが」
 莉彩は前置きしてから、言葉を選びつつ口を開く。
「国王殿下はもしや、大妃さまに対して意固地になっていらっしゃるのではないでしょうか」
「ホウ、殿下が意固地に」
 そのようなことを口にして、流石に淑妍からたしなめられると思ったのだが、意に反して、淑妍は面白そうに相槌を打った。
「確かに身分や階級に囚われず、力のある人を登用することは大切ですが、権門家出身だからといって、その人が必ずしも無能で自分の利を追うことだけしか考えていないとは限りません。名家と呼ばれる上流貴族の子弟にも、有能で国や民を心から憂える人はいるでしょう。殿下は、そのような有能な人材をも、ただ権門家の子弟だからという理由だけで避けておられるのでしょうか。もし、そうだとしたら、それは間違いだと思います。大妃さまへのお気持ちと政は全く別のもの。身分の低い人を積極的に登用するだけでなく、もっと広い視野で―従来の名家の子弟にも眼を向けるべきでしょう」
 莉彩の言葉に、淑妍は言葉もなく聞き入っている。言い終えてから、莉彩は〝しまった〟と口許を押さえた。調子に乗りすぎてしまったかもしれない。
「も、申し訳ございません。私ったら、ぺらぺらと生意気なことを申し上げてしまいました」
 が、淑妍は鷹揚に笑った。

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