テキストサイズ

約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第6章 契り

 その池を横目に見ながら走っていたときのことである。いきなり現れた女官の集団がわらわらと寄ってきて、莉彩を取り巻いた。
 見れば、どの顔もどこかで見たことがあるようで、皆、若い娘たちばかりだった。
―この女官たちは大妃殿に仕える人たちだ!
 莉彩は咄嗟に厭な予感がした。
 そして、大概の場合、そういった予感は当たらなければ良いのに的中する。籤など引いて当たりが出るときには一向に閃かない予感が、悪いこと、不幸が降りかかってくるときに限って閃いて、その上、当たるのだ。
「あなたが崔尚宮にお仕えする臨莉彩ね?」
 念を押すように問われ、莉彩は頷いた。
 知らず知らずの中にじりじりと後ずさっていた莉彩が瞬時に身を翻して逃げようとすると、ささっと一人の女官が進み出て手を広げてゆく手を塞ぐ。
「逃げようたって、そうはいかないわ」
「別に逃げるつもりはないけど」
 と、この際、シラを切っておく。
 莉彩は眼にぐっと力を込め、居並ぶ女官たちを眺め渡した。
「一体、何のつもり? 私が何をしたっていうのかしら」
 こんなときには下手に出た方が必然的に弱い立場に追い込まれるので、敢えて肩肘張るつもりだった。
 実際、莉彩には、こんな風に突然言われもなしに取り囲まれ、尋問を受ける憶えはないのだ。
「あなた、五日前に、大妃殿の廊下拭きの当番だったでしょ」
 また別の小柄な女官が口を尖らせた。
「ええ、確かにそれはそのとおりだけれど、それがどうかしたの?」
 と、小柄な女官が傍らの太った丸顔の娘の肩を抱いて前へ押しやる。
「五日前にあなたが当番をサボったせいで、この子が孔(コン)尚宮さまにひどいお叱りを受けたのよ」
 五日前―といえば、淑妍が来た日で、確かに莉彩は大妃殿の拭き掃除をしなかった―というよりは、できなかった。
「確かにあれは私が悪いの。ちょっとした都合で決まった時間に行けなくて、私が行ったときには、もう誰かが済ませてくれていたんです。あなたが私の代わりにやってくれたのね。ごめんなさい、あのときは本当にありがとう」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ