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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第6章 契り

 あっさりと謝った莉彩に、小柄な女官は鼻白み、太った女官は、おどおどとした表情で隣の小柄な女官を窺い見た。
 すると、それまで口を噤んでいた最初の女官がしゃしゃり出る。莉彩に名前を確認した、背の高い、ひょろりとした娘だ。
「謝れば、それで良いというものじゃないでしょう。あなたが時間になっても来なかったせいで、この娘(こ)は孔尚宮さまに一刻余りもお説教された挙げ句、罰として夕食も抜きだったのよ? 当番が来ないのなら、どうして、大妃殿で決まっている拭き掃除当番が早く代わりにしないんだって、えらくお冠だったわ」
「そう、だったの。本当にごめんさない。申し訳ないことをしたわ」
「あっ、も、もう、良いのよ」
 太った娘が紅い顔で首をぶんぶんと振ると、傍らの背の低い女官がちらりと睨む。
「良くはないでしょう。あれほど酷い目に遭ったのは誰のせいだと思ってるの。臨女官が自分勝手な都合で当番をサボったからなのよ」
 どうやら、この太った娘自身が莉彩に腹を立てているというよりは、他の女官たちが莉彩に腹いせをしたいがために口実として利用されているだけのようだ。
「で、でもっ。もう、あ、謝ってるんだし、済んだことだから」
 少しどもり気味の癖があるのだろうか。一見、鈍重そうに見えるが、鼻の上にソバカスが散ったその顔は愛敬があり、人の好さそうな娘である。
「大体、あなたって、少し良い気になりすぎなんじゃない? 主上(サンガンマーマ)が幾らあなたをお気に入りだからって、あなたはまだ正式な後宮にもなっていないんでしょ」
「そうよ、見かけだけが綺麗で美人でも、頭の中が空っぽじゃ、殿下だってすぐに飽きておしまいになるわ。だから、お手付きのままで、後宮どころか尚宮にもなれないのよ」
 中心人物の二人がこれ見よがしに言うのに、他の娘たちの間でもどよめきが漣のようにひろがる。

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