
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第6章 契り
まあ、花芳だって、面白い話ではない。羨ましくないといえば、嘘になる。しかし、国王に見初められるのは確率的にいえば、砂だらけの砂丘の中から、たったひと粒の砂金を見つけるよりも更に低い。つまり、殆ど可能性はないに等しい。
同性である花芳が見ても、臨女官は綺麗だ。膚だって透き通ってなめらかだし、眼が何とも印象的だ。濡れたようにきらきらと輝いていて、じっと見ていると、瞳の奥に引き込まれてしまいそう。
何より、花芳は臨女官の人柄を好ましいと思う。美貌にも拘わらず、それを少しも鼻にかけず、国王殿下のお手付き女官だと(噂の真偽のほどは知らないが)囁かれていても、驕ったところもないし、身分が低かったり、年端がゆかない者には優しい。誰もが厭がるような面倒な仕事でも厭な顔一つせずに進んで引き受ける。
臨女官よりも美人は後宮には少なくはないけれど、彼女が誰よりも美しく見えるのは、きっとその気性の良さによるものだろう。家が貧しくて、金と口減らしのために女官に上げられたようなものだが、父が亡くなるまでは、花芳の家もその日暮らしながら、何とかやっていた。
辻芸人をしていた父が病で亡くなり、幼子三人を抱えて暮らしに困った母は、やむなく上の花芳を女官にしたのだ。娘が女官になれば、家族には決まった俸給が支給される。
花芳はそのために、〝人知れず咲いて散る花〟とその宿命を謳われる女官になった。生涯誰にも嫁がず、娘盛りを誰にも嫁ぐことなく過ごし、空しく終わる一生を運命づけられることになった。
そして、他の女官も皆、大なり小なり似た理由で入宮したことに変わりない。だからこそ、女官は皆、夢と野心を抱く。国王の眼に止まる以外に、〝人知れず咲いて散る花〟の宿命を変えることはできないからだ。
亡くなった父が生前、よく言っていた。
―花芳、女の値打ちは姿かたちじゃねえ。女は眉目より心映えってもんが大切なのさ。お前も良い男を捕まえたかったら、そのことをよおく憶えておくんだな。妓生(キーセン)なら、男にその場限り愉しく過ごさせてれば良いが、女房になるのなら、それだけじゃ駄目だ。一緒にいて寛げる女が、女房にするにゃア、いちばん良いんだ。少しくらい、眼や鼻がひん曲がってても、心のきれえな女の方が良い。
同性である花芳が見ても、臨女官は綺麗だ。膚だって透き通ってなめらかだし、眼が何とも印象的だ。濡れたようにきらきらと輝いていて、じっと見ていると、瞳の奥に引き込まれてしまいそう。
何より、花芳は臨女官の人柄を好ましいと思う。美貌にも拘わらず、それを少しも鼻にかけず、国王殿下のお手付き女官だと(噂の真偽のほどは知らないが)囁かれていても、驕ったところもないし、身分が低かったり、年端がゆかない者には優しい。誰もが厭がるような面倒な仕事でも厭な顔一つせずに進んで引き受ける。
臨女官よりも美人は後宮には少なくはないけれど、彼女が誰よりも美しく見えるのは、きっとその気性の良さによるものだろう。家が貧しくて、金と口減らしのために女官に上げられたようなものだが、父が亡くなるまでは、花芳の家もその日暮らしながら、何とかやっていた。
辻芸人をしていた父が病で亡くなり、幼子三人を抱えて暮らしに困った母は、やむなく上の花芳を女官にしたのだ。娘が女官になれば、家族には決まった俸給が支給される。
花芳はそのために、〝人知れず咲いて散る花〟とその宿命を謳われる女官になった。生涯誰にも嫁がず、娘盛りを誰にも嫁ぐことなく過ごし、空しく終わる一生を運命づけられることになった。
そして、他の女官も皆、大なり小なり似た理由で入宮したことに変わりない。だからこそ、女官は皆、夢と野心を抱く。国王の眼に止まる以外に、〝人知れず咲いて散る花〟の宿命を変えることはできないからだ。
亡くなった父が生前、よく言っていた。
―花芳、女の値打ちは姿かたちじゃねえ。女は眉目より心映えってもんが大切なのさ。お前も良い男を捕まえたかったら、そのことをよおく憶えておくんだな。妓生(キーセン)なら、男にその場限り愉しく過ごさせてれば良いが、女房になるのなら、それだけじゃ駄目だ。一緒にいて寛げる女が、女房にするにゃア、いちばん良いんだ。少しくらい、眼や鼻がひん曲がってても、心のきれえな女の方が良い。
