
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第6章 契り
「大変なこと、とは?」
更に当惑顔の国王は、噂に違わず美男だった。四十歳という男盛りに本来の端整な美貌、更には王者らしい威風堂々とした男ぶりは、こんなときですら、花芳の眼を奪った。
醜い小男ですら、錦の衣をその身に纏い、玉座にふんぞり返っていれば、女は誰もが国王に見初められたいと願うものなのに、徳宗は容姿、君主としての徳、王とは思えないほどの親しみやすい人柄とおよそすべてのものを兼ね備えていた。
このような男ぶりも良い国王に愛される臨女官を朋輩女官たちが羨望し、意地悪をしたくなる気持ちも―少しは判るような気がした花芳だった。もっとも、だからといって、姉のように慕う臨女官をこのように半生半死の目に遭わせた者たちをけして許すつもりはないけれど。
「臨女官が池に落ちたようにございます」
花芳が促すと、畏れ多さのあまり失神しそうになった太っちょ女官が震えながら臨女官を降ろし、そっと床に横たえた。
「莉彩!?」
そのとのき王の顔は、確かに見物だった―と、花芳は後から何度も思い返した。ある意味では感動的でもあり、またある意味では、女一人の生き死にで一国の王たる人がここまで取り乱し狼狽えるものかと滑稽でさえあった。
「莉彩ッ」
王はまろぶようにして臨女官に近づき、その腕で臨女官を抱え起こす。
「一体、これは、いかなることか?」
その問いが自分に向けられたものであると知り、花芳は慌てて眼を伏せた。
よもや、あの美男の国王殿下の逞しい腕に抱かれた臨女官が羨ましいなどと考えていたとはおくびにも出せない。
「国王殿下、どうやら臨女官は他の者に陥れられたようにございます。南園の池に突き落とされたようで、私どもが助けたときには、既にこのような有様にございました」
王は花芳の科白を最後まで聞いてはいなかったようだ。
「許さぬ」
ややあって王の口から落ちた呟きは、思わず凍りついてしまうほど冷たい声だった。
まるで先刻までの王とは別人のような変貌ぶりだ。
「守女官に訊ねる。臨女官を池に投げ込んだというのは、同じ女官どもの仕業なのか?」
「―はい(イエ)、殿下(チヨナー)」
更に当惑顔の国王は、噂に違わず美男だった。四十歳という男盛りに本来の端整な美貌、更には王者らしい威風堂々とした男ぶりは、こんなときですら、花芳の眼を奪った。
醜い小男ですら、錦の衣をその身に纏い、玉座にふんぞり返っていれば、女は誰もが国王に見初められたいと願うものなのに、徳宗は容姿、君主としての徳、王とは思えないほどの親しみやすい人柄とおよそすべてのものを兼ね備えていた。
このような男ぶりも良い国王に愛される臨女官を朋輩女官たちが羨望し、意地悪をしたくなる気持ちも―少しは判るような気がした花芳だった。もっとも、だからといって、姉のように慕う臨女官をこのように半生半死の目に遭わせた者たちをけして許すつもりはないけれど。
「臨女官が池に落ちたようにございます」
花芳が促すと、畏れ多さのあまり失神しそうになった太っちょ女官が震えながら臨女官を降ろし、そっと床に横たえた。
「莉彩!?」
そのとのき王の顔は、確かに見物だった―と、花芳は後から何度も思い返した。ある意味では感動的でもあり、またある意味では、女一人の生き死にで一国の王たる人がここまで取り乱し狼狽えるものかと滑稽でさえあった。
「莉彩ッ」
王はまろぶようにして臨女官に近づき、その腕で臨女官を抱え起こす。
「一体、これは、いかなることか?」
その問いが自分に向けられたものであると知り、花芳は慌てて眼を伏せた。
よもや、あの美男の国王殿下の逞しい腕に抱かれた臨女官が羨ましいなどと考えていたとはおくびにも出せない。
「国王殿下、どうやら臨女官は他の者に陥れられたようにございます。南園の池に突き落とされたようで、私どもが助けたときには、既にこのような有様にございました」
王は花芳の科白を最後まで聞いてはいなかったようだ。
「許さぬ」
ややあって王の口から落ちた呟きは、思わず凍りついてしまうほど冷たい声だった。
まるで先刻までの王とは別人のような変貌ぶりだ。
「守女官に訊ねる。臨女官を池に投げ込んだというのは、同じ女官どもの仕業なのか?」
「―はい(イエ)、殿下(チヨナー)」
