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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第6章 契り

 王はしばらく思案した後、莉彩を抱き上げ、別の宮にある彼女の部屋に運んだ。
 ぐったりした莉彩の姿を見た崔尚宮は色を失った。
「殿下、何事が起きたのでございましょう」
 莉彩を娘のように可愛がる崔尚宮だけに、その取り乱し様も尋常ではなかった。
 既に陽は落ち、宮殿は宵闇の底に沈んでいる。王はすぐに崔尚宮に尚薬を呼ぶように命じ、自らは莉彩の枕辺に座った。
 ほどなく尚薬が駆けつけ、莉彩の様子を丹念に診察した。
「どうだ? 助かるであろうな」
 水を打ったようなしじまの中、王の苛立った声が響く。
 既に老齢に達していると言って良い尚薬は難しげな表情で首を振った。
「判りませぬ。この状態で長らく放っておかれたのでありましょう。脈も弱くなっております。とにかく身体が冷え切っておりますゆえ、温めることが何より肝要かと存じます。まずは濡れた衣服を改め、乾いた清潔なものに取り替えた方がよろしいかと」
 王は苛立ちを隠せない様子で声高に叫んだ。
「崔尚宮」
 すぐに扉が開き、崔尚宮が顔を覗かせる。
「この部屋をできるだけ温めて欲しい」
 崔尚宮は頷き、火鉢を幾つか女官に運ばせた。数個の火鉢に火を熾したお陰で、部屋は直に暖かくなり、汗ばむほどになった。
「殿下、臨女官を着替えさせますゆえ、どうかその間だけお外でお待ち下さいませ」
 崔尚宮が控えめに言上するのに、王は首を振った。
「良い、莉彩は誰にも触れさせぬ。私がやろう」
「しかしながら―」
 流石に崔尚宮は異を唱えた。
 彼女は莉彩がまだ清らかな身体であることを知っている。たとえ後宮でどのような噂がはびこっていようが、莉彩の身の潔白を知っているのだ。
 たとえ意識を失っているとはいえ、男性の手によって着替えなどさせては不憫だと思ったのである。衣服を脱がせれば、当然、膚をその男の眼に晒すことになる。相手が国王殿下にせよ、莉彩当人の同意も得ず、そのようなことはさせられないと判断したのだ。
「崔尚宮、莉彩のことについては予が必ずや責任を持つ。だから、今夜は予に任せてくれ」

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