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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第6章 契り

 気遣わしげに莉彩を見つめる王の瞳に、躊躇いの色が浮かんだ。しかし、それは一瞬のことで、躊躇いは決意に変わる。
 王はもう躊躇わず、莉彩の下半身を覆っているチマも脱がせた。これで莉彩は一糸纏わぬ裸身を王の前に見せることになった。
 すんなりとした形の良い脚の狭間に息づく淡い繁みや秘所をちらりと見つめ、王は己れの中に浮かぶ邪な劣情を追い払うように小さ首を振る。
 自分も衣服を脱いで裸になると、莉彩のやわらかな身体を抱いて共に布団に横たわり掛け衾(ふすま)にくるまった。
「死ぬな、莉彩。頼むから、私を置いて逝かないでくれ」
 王が莉彩の耳許で囁きながら、その華奢な身体を力一杯抱きしめる。
 か細い身体はゾッとするほど冷たかった。
 部屋の中はこれほどまでに温かいというのに、莉彩の身体はまるで魂を喪った抜け殻のように凍えきっている。
 王は怖れた。このまま愛する女の魂が現身(うつしみ)をさまよい出て、二度と戻ってこなくなることを怖れ、莉彩を禍々しい死に神から守るかのようにその力強い腕で抱きしめた。
 もう、二度と愛する女を失いたくない。
 二十年前、若さゆえの愚かさから伊淑儀を失ってからというもの、彼は暗闇に囚われて続けてきた。人を愛し、信ずることなどできないと頑なに孤独な殻に閉じこもり続けてきた。そんな彼にとってひとすじの光となり、手を差しのべて絶望の底から救い出してくれたのが莉彩だったのだ。
 この女を失えば、恐らく自分は今度こそ、生ける屍と化すだろう。
 だから、失えない、失いたくない。
 王は莉彩の身体に少しでも温もりを分け与えるようにかき抱き、自らの生命を注ぎ込むかのようにその唇に自らの唇を押し当てた。
 どれくらい経ったのか。
 到底眠れないだろうと思っていたにも拘わらず、王は莉彩を腕に抱いたまま浅い眠りに落ちたらしかった。
 それでも、一刻も経ってはいないのだろう、部屋の外はいまだ暗く、夜の色に染まっている。その時、王の腕の中で、莉彩がかすかに身を捩った。
 ハッと我に返った王が莉彩を覗き込む。
 莉彩の長い睫が細かく震え、瞳がゆっくりと開いた。
「莉彩?」
「私―」

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