
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第7章 対立
対立
月夜に伽耶琴(カヤグム)の音色が冴え渡る。
想い人のつま弾く音に聞き入りながら夜空を眺めていた王がふっと振り返った。
今宵、莉彩は大殿の王の寝所に伺候した。初めて結ばれてから、ふた月が経っていた。その間、莉彩は既に幾度も王と褥を共にしている。
今は七月初旬、夏の暑い盛りだ。夏のこととて、廊下側ではなく外に面した扉は開け放っている。王はその際に佇み、飽くこともなく月を眺めているのだった。
伽耶琴の音色が止み、辺りは森閑として静けさに満たされた。
「孫淑容(スギヨン)、予は満月は嫌いだ」
王はまるで三つの子どもが拗ねたような口調で言う。
そういえば、今夜は丸々と肥えた月が菫色の空を飾っていた。
莉彩は今では〝孫淑容〟と呼ばれている。〝淑容〟というのは後宮での妃の地位で上から数えると十八階級六番目になる。徳宗自身はせめて淑儀(十八階級四番目)に叙したかったようだが、大妃の手前も慮り最終的に淑容という立場に決まった。
正式な妃として認められると同時に、莉彩は養母の臨尚宮の願いどおり、左議政の孫大監の養女となった。これに伴い、名前も臨莉彩から孫莉彩に変わる。
徳宗の寵愛を一身に集める寵姫孫淑容の父となり、孫大監は更に強大な権力、勢力を要するようになった。徳宗を頂く改革派にとって最も強みとなったのは、この大物がそれまで属していた保守派から改革派に乗り換えたことに相違ない。
孫大監の突然の裏切りともいえる行為に、保守派は浮き足立っている。これまで保守派の結束が固かったのは、孫大監がおり眼を光らせていたからでもあった。政に関しては無能な大妃では、並み居る大臣たちをうまくまとめ、派閥全体の統制を取ることは困難だ。
保守派の足並みが乱れている今こそ、彼等を叩き潰す千載一遇の好機かと思われたが、徳宗は動こうとはしない。
やはり、幾ら王であろうと、王朝始まって以来の功臣を輩出してきた名門に対して、必要以上に強硬には出られないということもあった。
月夜に伽耶琴(カヤグム)の音色が冴え渡る。
想い人のつま弾く音に聞き入りながら夜空を眺めていた王がふっと振り返った。
今宵、莉彩は大殿の王の寝所に伺候した。初めて結ばれてから、ふた月が経っていた。その間、莉彩は既に幾度も王と褥を共にしている。
今は七月初旬、夏の暑い盛りだ。夏のこととて、廊下側ではなく外に面した扉は開け放っている。王はその際に佇み、飽くこともなく月を眺めているのだった。
伽耶琴の音色が止み、辺りは森閑として静けさに満たされた。
「孫淑容(スギヨン)、予は満月は嫌いだ」
王はまるで三つの子どもが拗ねたような口調で言う。
そういえば、今夜は丸々と肥えた月が菫色の空を飾っていた。
莉彩は今では〝孫淑容〟と呼ばれている。〝淑容〟というのは後宮での妃の地位で上から数えると十八階級六番目になる。徳宗自身はせめて淑儀(十八階級四番目)に叙したかったようだが、大妃の手前も慮り最終的に淑容という立場に決まった。
正式な妃として認められると同時に、莉彩は養母の臨尚宮の願いどおり、左議政の孫大監の養女となった。これに伴い、名前も臨莉彩から孫莉彩に変わる。
徳宗の寵愛を一身に集める寵姫孫淑容の父となり、孫大監は更に強大な権力、勢力を要するようになった。徳宗を頂く改革派にとって最も強みとなったのは、この大物がそれまで属していた保守派から改革派に乗り換えたことに相違ない。
孫大監の突然の裏切りともいえる行為に、保守派は浮き足立っている。これまで保守派の結束が固かったのは、孫大監がおり眼を光らせていたからでもあった。政に関しては無能な大妃では、並み居る大臣たちをうまくまとめ、派閥全体の統制を取ることは困難だ。
保守派の足並みが乱れている今こそ、彼等を叩き潰す千載一遇の好機かと思われたが、徳宗は動こうとはしない。
やはり、幾ら王であろうと、王朝始まって以来の功臣を輩出してきた名門に対して、必要以上に強硬には出られないということもあった。
