
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第7章 対立
だが、己れの胸に浮かんだこの想いを徳宗に伝えるつもりはない。こんなことを告げても、徳宗を傷つけ哀しませるだけであろうことが判っているからだ。
莉彩の胸中を知ってか知らずか、王が嘆息混じりに笑った。
「満ちた月を見る度、予はそなたがまたいなくなってしまうのではないかと不安でたまらぬのだ」
そう言ってから、王は照れたような表情になった。
「こんなことを申せば、童のようだとそなたに笑われてしまうだろうか」
「いいえ」
莉彩は微笑んだ。
十年前、莉彩がこの時代から元いた現代に帰ったのも満月の夜だった―。王はそのことを言っているのだ。
いつになるのか、別れがいつ訪れるのか。それは誰にも判らない。莉彩も王も二人ともに別れの予感に怯えながら、それでも、どちらからも口に出さないでいる。口にしてしまえば、別離がすぐに訪れてしまうような気がして、王も莉彩も極力、その話題は避けていた。
「殿下のお好きな香草茶でもお淹れ致しましょう」
莉彩は務めて明るい声音で言い、準備を始めた。あの淑妍直伝の香草茶は徳宗のお気に入りでもある。
莉彩は王のために淹れるときには、特に心を込めて淹れるようにしていた。いつも淑妍の教えを思い出し、茶葉が開き切るまでゆっくりと辛抱強く待つ。
ほどなく急須から芳しい香りが立ち上り始めた。莉彩の味覚からいえば、どこなくハーブティに似た味がする不思議な風味のお茶である。小卓の上に並んだ湯呑みに香草茶を手早く注ぐ。
茶葉が完全に開くまでは刻をかけねばならないが、一旦、開き切ったら、すぐに湯呑みに移さないと今度は苦みが出るのだ―、淑妍はそうも言った。
王は小卓に並んだ湯呑みを手に取り、味わうようにまずひと口含む。ふた口めからは喉を鳴らしていかにも美味そうに呑むのが常だ。
「莉彩の淹れる香草茶は格別だな」
王はしみじみと呟き、空になった湯呑みを卓に戻した。莉彩が呑み終えるのを待っていたように小卓を脇に押しやり、両手を差し出す。
莉彩の胸中を知ってか知らずか、王が嘆息混じりに笑った。
「満ちた月を見る度、予はそなたがまたいなくなってしまうのではないかと不安でたまらぬのだ」
そう言ってから、王は照れたような表情になった。
「こんなことを申せば、童のようだとそなたに笑われてしまうだろうか」
「いいえ」
莉彩は微笑んだ。
十年前、莉彩がこの時代から元いた現代に帰ったのも満月の夜だった―。王はそのことを言っているのだ。
いつになるのか、別れがいつ訪れるのか。それは誰にも判らない。莉彩も王も二人ともに別れの予感に怯えながら、それでも、どちらからも口に出さないでいる。口にしてしまえば、別離がすぐに訪れてしまうような気がして、王も莉彩も極力、その話題は避けていた。
「殿下のお好きな香草茶でもお淹れ致しましょう」
莉彩は務めて明るい声音で言い、準備を始めた。あの淑妍直伝の香草茶は徳宗のお気に入りでもある。
莉彩は王のために淹れるときには、特に心を込めて淹れるようにしていた。いつも淑妍の教えを思い出し、茶葉が開き切るまでゆっくりと辛抱強く待つ。
ほどなく急須から芳しい香りが立ち上り始めた。莉彩の味覚からいえば、どこなくハーブティに似た味がする不思議な風味のお茶である。小卓の上に並んだ湯呑みに香草茶を手早く注ぐ。
茶葉が完全に開くまでは刻をかけねばならないが、一旦、開き切ったら、すぐに湯呑みに移さないと今度は苦みが出るのだ―、淑妍はそうも言った。
王は小卓に並んだ湯呑みを手に取り、味わうようにまずひと口含む。ふた口めからは喉を鳴らしていかにも美味そうに呑むのが常だ。
「莉彩の淹れる香草茶は格別だな」
王はしみじみと呟き、空になった湯呑みを卓に戻した。莉彩が呑み終えるのを待っていたように小卓を脇に押しやり、両手を差し出す。
