
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第1章 邂逅~めぐりあい~
「さりながら、あの者はそなたの生命を奪おうとしたのだぞ? そなたが九死に一生を得たのは単に運が良かったからにすぎぬ。大方の場合、このようなときには荷車に当たっていただろう。そうなれば、そなたは今頃、物言わぬ骸となり果て、道端に転がっているところだ。そのように容易く許しても良いのか」
男の怒りも言い分も道理だ。しかし、どう見ても齢七十を過ぎた老爺が頭ごなしに怒鳴られているのは忍びない。
「この人の言うことも、理屈としては間違いはありません。生きるためには人間は皆、働かねばならないし、もし今日、品物が間に合わなければ、一家全員が路頭に迷うことに―」
そこまで言って、莉彩はハッとした。
「お爺さん、あなたはここでこんな言い合いをしている場合ではないのでしょ? 早くにその荷車に積んだ商品を取り引き先に納めないと駄目なんでしょう」
「仰せのとおりにございます。慈悲深いお嬢さま」
老爺は低頭したまま言い、ふと顔を上げた。莉彩を見た老爺の細い眼が見開かれる。
皺深い面に〝おや〟という表情がひろがった。
「お前さんは―」
しかし、生憎と莉彩には見憶えのない顔だ。
「どこかでお逢いしましたか?」
莉彩が小首を傾げると、老人はじいっと彼女の顔を見つめた。ぐっと近づき顔を覗き込む。眦の皺に埋もれた細い眼(まなこ)の奥に鋭い光が閃いた。一介の商人というよりは、あたかも人相見のような人の心の奥底を見透かす視線だ。
思わず後ずさった莉彩を守るように、男が老人の前に立ちはだかった。
「そんなにご心配なさいますな。私は賤しい身分にはございますが、これでも少しは人相見のようなことも致しましてな、興味を引かれたお方の観相をすることがございます」
老人はかすかに眼をまたたかせた。
その細い瞳が再び穏やかさを取り戻す。
「ホウ、それでは、そなたはこの娘に興味を持ったと申すのか?」
老人の言葉に、男もまた興をそそられたようであった。
ホッと胸を撫で降ろす莉彩に、老人はにこやかに告げた。
「実に珍しい相をなさっております」
「というと?」
男の怒りも言い分も道理だ。しかし、どう見ても齢七十を過ぎた老爺が頭ごなしに怒鳴られているのは忍びない。
「この人の言うことも、理屈としては間違いはありません。生きるためには人間は皆、働かねばならないし、もし今日、品物が間に合わなければ、一家全員が路頭に迷うことに―」
そこまで言って、莉彩はハッとした。
「お爺さん、あなたはここでこんな言い合いをしている場合ではないのでしょ? 早くにその荷車に積んだ商品を取り引き先に納めないと駄目なんでしょう」
「仰せのとおりにございます。慈悲深いお嬢さま」
老爺は低頭したまま言い、ふと顔を上げた。莉彩を見た老爺の細い眼が見開かれる。
皺深い面に〝おや〟という表情がひろがった。
「お前さんは―」
しかし、生憎と莉彩には見憶えのない顔だ。
「どこかでお逢いしましたか?」
莉彩が小首を傾げると、老人はじいっと彼女の顔を見つめた。ぐっと近づき顔を覗き込む。眦の皺に埋もれた細い眼(まなこ)の奥に鋭い光が閃いた。一介の商人というよりは、あたかも人相見のような人の心の奥底を見透かす視線だ。
思わず後ずさった莉彩を守るように、男が老人の前に立ちはだかった。
「そんなにご心配なさいますな。私は賤しい身分にはございますが、これでも少しは人相見のようなことも致しましてな、興味を引かれたお方の観相をすることがございます」
老人はかすかに眼をまたたかせた。
その細い瞳が再び穏やかさを取り戻す。
「ホウ、それでは、そなたはこの娘に興味を持ったと申すのか?」
老人の言葉に、男もまた興をそそられたようであった。
ホッと胸を撫で降ろす莉彩に、老人はにこやかに告げた。
「実に珍しい相をなさっております」
「というと?」
