テキストサイズ

約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第9章  MooN Light

 ライラックの花を象ったその簪は、花びらの部分にアメジストがはめ込まれ、莉彩の父が韓国旅行の土産として持ち帰ったものであった。不思議な露天商から求めたという簪は、さる昔、朝鮮の王が寵愛した妃の持ち物だったという言い伝えがあり、また離れ離れになった恋人たちを再び引き寄せる力を秘めていた。
 簪を手にしたそのときから、莉彩は簪をめぐる不思議に巻き込まれることになった。徳宗と烈しい恋に落ちた十六歳の莉彩はやがて現代に戻った。
―十年後のりらの花の咲く頃に再びここで逢おう。
 都の町外れの橋のたもとで徳宗と莉彩は約束を交わした。到底果たされることがないと思えたその約束はしかしながら、十年後、現実となった。莉彩はリラの簪を髪に飾り、またしても朝鮮王国時代へと飛んだ。
 奇蹟的に再会を果たした徳宗と莉彩はついに結ばれ、莉彩は国王の正式な側室として従三品・淑容の位階を賜った。国王のただ一人の寵妃として徳宗の愛を一身に集めていた莉彩だったが、徳宗の義母金大妃からの迫害は厳しく、自分が徳宗の傍にいては大妃の王への憎しみが余計に増すことを知る。
 徳宗のために自ら身を退く決意を固めた莉彩は、懐妊していることを誰にも告げず、ひっそりと現代へと戻った―。
 奇しくも、莉彩が五百六十年の時空を行き来するのには、月の満ち欠けが大きく影響しているようであった。最初に現代に戻ってきたのも満月の夜であり、二度目に現代に召還された夜もやはり月は満ちていた。
 今夜のような明るい満月の夜が来る度、莉彩の心は切なく疼く。二度とは逢えないあの男を想い、涙が眼の淵までせり上げてくる。
 だが、今の莉彩はもう泣いてばかりはいられない。莉彩は既に一児の母となったのだ。母親であるからには、恋しい男を想って泣くよりは子の身を考えねばならない。
 二度目の帰還を果たしてから後、莉彩は自分の予感が的中していたことを改めて知ることになった。莉彩は、やはり徳宗の子を懐妊していたのだ。
 あれからの日々は正直、莉彩にとっては苛酷だった。前回と同様、現代と朝鮮王国時代では時間の流れる速さが微妙に違っており、莉彩が向こうに滞在していた四ヵ月が現代ではひと月にも満たない間のことだった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ