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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第9章  MooN Light

 とはいっても、産前のようなちゃんとしたOLには程遠い。新聞の求人広告を見て色々と探し回った挙げ句、最終的に雇って貰えた惣菜屋の店番であった。できればI町の店が良かったのだが、生憎とY町の店しか空きがないということで、莉彩はY駅の近くの小さな惣菜屋で働くことになった。
 惣菜屋とはいっても、弁当屋も兼ねているので、結構忙しい。莉彩の他には店番はおらず、週のうち、月曜が休みで、水曜と金曜は午後からの出勤の他はすべて莉彩が一人で任されていた。予め届けられた冷凍物を温めたり、揚げたりして弁当箱に詰め、勘定を済ませる。すべてを一人でこなさなければならないため、息をつく暇もなかった。
 それでも、仕事帰りの会社員や学生ができたての弁当や惣菜を嬉しそうに持ち帰る姿を見るにつけ、心を込めてさえいれば、たとえどんな仕事でもやり甲斐はあるのだと思うようになった。
 莉彩は子どもが生まれてから一度だけ、母には手紙を出した。生まれたばかりの子どもの写真と元気でやっているから、心配しないで下さいという内容の短いものだったが、母からはすぐに返事が来た。
 赤ン坊の衣類や、紙おむつ、粉ミルクなどといった大量の荷物と共に、
―元気でやっているそうなので、本当に安心しました。莉彩がこんなに近くにいたことに、改めて愕いています。子どもも生まれたそうなので、一度、顔を見せにきてはどう? お父さんも意地を張っていますが、本当は莉彩に逢いたいのよ。孫の顔を見れば、頑なだった気持ちも少しはやわらぐのではないかしら。
 と書かれていた。
 母の心遣いが嬉しくて、莉彩は届けられた荷物を胸に抱いて泣いた。が、今更、どんな顔をして両親の前に出られるだろう?
 莉彩は短い礼の手紙だけを出し、自分がここにいることは父には内緒にして欲しいと頼んだ。
 惣菜屋の仕事は朝早く、晩が遅い。莉彩は働くために、子どもを仕事先から近い保育園に預けていた。午後からの勤務と仕事が休みの日だけは子どもと二人で過ごす他は、大抵離れている。その分、子どもにはできるだけ愛情を注ぐように心がけていた。

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