
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第9章 MooN Light
「さあ、そろそろ急がないと、電車に遅れちゃうよ」
「うん」
聖泰が元気に頷き、駆け出す。
莉彩は笑いながら、息子の後ろ姿を眼で追った。ほどなく小さな駅舎が見えてくる。
普段は人もいない無人の駅は、待つ人もおらず、ひっそりと静まり返っていた。
駅の手前にある踏切が耳障りな音を立てて鳴り始めた。耳をつんざくような音に、莉彩はハッと眼を凝らす。
聖泰の小さな身体が今にも線路に飛び込んでゆきそうなことに気付き、蒼白になった。一瞬、身体中の血が音を立てて逆流してゆくように思えた。
「聖泰ッ、駄目」
叫んで疾駆する。遮断機が降り、息子の小さな身体をその腕に抱き止めたのは、まさに電車が眼前を通り過ぎる寸前のことだった。
「良かった」
莉彩は聖泰を力一杯抱きしめる。涙が込み上げた。
あの男の大切な忘れ形見。あの男が私に残してくれた私の宝物。どんなことがあっても、この子だけは守り通さなければならない。
莉彩が四年前、現代に戻ってきたのは、この子を守るためでもあった。徳宗を憎悪する金(キム)大妃(テービ)の魔手が莉彩の生むであろう子に向けられることは必定であった。大妃は徳宗の大切にするものを徹底的に傷つけ、破壊する。
聖泰に何かあったら、莉彩もまた生きてはゆけない。はるか遠い時の彼方にいるあの男と自分を結びつけるたった一つのものが息子だった。
漸く騒がしかった音が止み、遮断機が持ち上がる。走り去ってゆく電車のテールランプが遠く小さくなってゆくのを見送りながら、莉彩は笑った。
「電車、行っちゃったね。少し寒いけど、次の電車を待とうか」
再び息子の手を今度はしっかりと握りしめたその時、莉彩の視界が揺れた。
それは空間―眼に映る光景がグニャリと歪んだような感じだった。莉彩は思わず手のひらでこめかみを押さえた。
軽い目眩だろうか。振り返ってみれば、今日も一日、忙しかった。昼に自分が食事を取る暇もろくにないほど、朝八時から夜の八時まで一人で働きづめなのだ。疲れが溜まっていたとしても不思議ではない。
「うん」
聖泰が元気に頷き、駆け出す。
莉彩は笑いながら、息子の後ろ姿を眼で追った。ほどなく小さな駅舎が見えてくる。
普段は人もいない無人の駅は、待つ人もおらず、ひっそりと静まり返っていた。
駅の手前にある踏切が耳障りな音を立てて鳴り始めた。耳をつんざくような音に、莉彩はハッと眼を凝らす。
聖泰の小さな身体が今にも線路に飛び込んでゆきそうなことに気付き、蒼白になった。一瞬、身体中の血が音を立てて逆流してゆくように思えた。
「聖泰ッ、駄目」
叫んで疾駆する。遮断機が降り、息子の小さな身体をその腕に抱き止めたのは、まさに電車が眼前を通り過ぎる寸前のことだった。
「良かった」
莉彩は聖泰を力一杯抱きしめる。涙が込み上げた。
あの男の大切な忘れ形見。あの男が私に残してくれた私の宝物。どんなことがあっても、この子だけは守り通さなければならない。
莉彩が四年前、現代に戻ってきたのは、この子を守るためでもあった。徳宗を憎悪する金(キム)大妃(テービ)の魔手が莉彩の生むであろう子に向けられることは必定であった。大妃は徳宗の大切にするものを徹底的に傷つけ、破壊する。
聖泰に何かあったら、莉彩もまた生きてはゆけない。はるか遠い時の彼方にいるあの男と自分を結びつけるたった一つのものが息子だった。
漸く騒がしかった音が止み、遮断機が持ち上がる。走り去ってゆく電車のテールランプが遠く小さくなってゆくのを見送りながら、莉彩は笑った。
「電車、行っちゃったね。少し寒いけど、次の電車を待とうか」
再び息子の手を今度はしっかりと握りしめたその時、莉彩の視界が揺れた。
それは空間―眼に映る光景がグニャリと歪んだような感じだった。莉彩は思わず手のひらでこめかみを押さえた。
軽い目眩だろうか。振り返ってみれば、今日も一日、忙しかった。昼に自分が食事を取る暇もろくにないほど、朝八時から夜の八時まで一人で働きづめなのだ。疲れが溜まっていたとしても不思議ではない。
