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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第1章 邂逅~めぐりあい~

 莉彩は眼の前の男をよくよく見た。
 この服装は確か―。李氏朝鮮時代の人の格好ではないのか。よく韓流ドラマなどで見かけるもので、今、現実に莉彩の前を通り過ぎてゆく人たちは貴賤の差はあれども皆、似たり寄ったり、つまりドラマで見るような身なりをしている。
「う、嘘だわ」
「そうだ、嘘に決まっている。あんな怪しい爺さんの申した嘘など気にせずに―」
 言いかけた男の前で、莉彩は思わず両手で顔を覆った。
「一体、何なの? 突然、こんな時代に引っ張り込まれて、しかも、ここは日本でもなくて遠い韓国だなんて」
 いや、この時代は韓国という国名さえなく、朝鮮と呼ばれていた。莉彩は自分の頬をピシャリと叩いた。
 そうだ、こんなのは悪い冗談に決まっているではないか。手の込んだできすぎたドッキリカメラか、さもなければ、韓流ドラマの撮影ロケに紛れ込んでしまったかのどちらかだ。
 現実にタイムトリップなんて、この世にあるはずがないのだから。
 莉彩は必死に自分に言い聞かせた。
「おい、しっかりしろ、気は確かか? 頭はどこも打ってないし、見た目は怪我をしてるようには見えんがな」
 男が莉彩の眼の前で手のひらをひらひらと振って見せた。
「失礼ね、私は正気も正気、気違いなんかしゃありません。助けて貰ったお礼は言いますけど、もしかして、さっきのお爺さんや私が荷車に轢かれそうになったのも芝居の一部じゃないの?」
 莉彩の剣幕に、男が鼻白む。
「あの爺さんといい、この女といい、今日は何とも無礼な奴らばかりに遭遇するようだ。全くついてない一日になってしまった。私の方こそ、爺さんに観相して貰った方が良かったかもしれぬ」
「助けて頂いて、ありがとうございました。それじゃあ、ごきげんよう」
 怒りまくる男を後に、莉彩がさっさと歩き出そうとする。いつまでも、こんな質の悪い茶番に付き合ってなんかいられるものか。監督がどこにいるかは知らないけれど、一刻も早く見つけ出して何とかして貰わないといけない。

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