テキストサイズ

約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第9章  MooN Light

 顎の周囲に髭をたくわえたその端整な風貌はこの四年間で更に王者の風格を増したようであった。
「莉彩、どうしていた? 私はそなたに逢えぬこの四年間というもの、まるで生きながら死んでいるようなものであった。この前は奇蹟的に再会できたが、あのような幸運が二度と起こるとも思えず、毎日、悶々と過ごしておったのだぞ」
 そこで初めて徳宗の視線が動き、布団で眠っている聖泰を捉えた。
「臨尚宮にそなたがここにおると聞いたときは、思わず我が耳を疑った。莉彩、その子どもは―」
 やはり、徳宗も淑妍と同じことを問う。当然といえば、当然であったろう。四年前は一人で現代に還ったはずの莉彩が今度は子連れで現れたのだ。疑問に思わないはずがない。
「殿下(チヨナー)、お久しぶりにございます」
 莉彩は立ち上がると、両手を重ね合わせ眼の高さに持ち上げた。座って拝礼し、更に立ち上がってからもう一度、深々と頭を下げる。
 しかし、それだけで後は伏し目がちで、徳宗とまともに視線を合わせようとはしなかった。
 拝礼する莉彩を感慨深げに見つめていた徳宗も違和感に気付いたようだ。
「莉彩、いかがしたのだ?」
「殿下、もうお帰り下さいませ」
 最初、莉彩の言葉を徳宗は信じられないといった表情で聞いていた。
「莉彩、一体、どうしたのだ、何があったのだ!」
 徳宗が一歩近づいてくる。莉彩は、思わず後ろへと後退していた。すやすやと眠る子どもを守るかのように、聖泰の傍にぴったりと寄り添う。
 莉彩がこの時初めて徳宗を見た。
「四年前、私は自らこの時代を去りました。それは、殿下にこれ以上私のせいで負担をかけてはならないと思ったからにございます。私がここにいることを大妃さまがご存じになれば、また私を使って卑怯な手段で殿下に揺さぶりをおかけになるでしょう。私ごときのせいで、殿下がお苦しみになるのを見るのは辛うございます。それゆえ、私のことは、もうお忘れになって下さいますよう」
 徳宗の整った面輪は忽ちにして強ばってゆく。最早、その顔には血の気はなかった。
「何故だ、何故、そのような酷いことを私に申すのだ?」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ