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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第9章  MooN Light

 悲痛な響きを帯びた声で呻くように言い、次いで、眠っている聖泰に視線を移した。
「そなたがそのようなことを言う原因は、その子どもか?」
 莉彩は肯定も否定もしなかった。が、徳宗はそれを肯定の証と受け止めたようだ。
「教えてくれ、莉彩。その子は誰の子なのだ? そなたの子どもなのか」
 永遠に途切れることがないと思えるほどの沈黙が続いた。
 やがて、その不気味なほどの静寂は徳宗の唸りで終わった。
「乳母はその子どもはそなた自身の子であると申しておったが―、その父親の名は頑なに口を閉ざして、けして応えぬと申しておった。子どもが母親一人だけで生まれてくるはずがない。子どもがおるからには、当然、父親となるべき男がいるはずだ。莉彩、その子の父親は誰なのだ? よもや、あの和泉という男ではなかろうな」
 莉彩はうつむけたままの顔を上げようともせず、消え入りそうな声で応えた。
「父親の名はお応えすることはできません。国王殿下には拘わりなきことにございますゆえ」
 刹那、小さく息を呑む気配が伝わってきた。
「そういうことか」
 一人で納得したように頷いた王の瞳に妖しい焔が宿った。
「私はそなたを思い焦がれて苦しい年月を過ごしてきたというのに、そなたは私を裏切ったのか!?」
 哀しげな声音が響き、莉彩は胸が潰れそうになる。
 莉彩だって、この四年間、どれほど徳宗に逢いたいと願ったことだろう。夜半に泣きながら見る夢には、必ず煌々と輝く満月と愛しい男の笑顔が出てきた。
 それでも、我慢したのは、けして愛してはならない、どれほど恋しくても傍にいてはいけない男だからと自分に言い聞かせたからだ。
 徳宗は既に聖君としての尊崇を朝鮮中の民から受けている。世に並びなき賢君として轟き渡っている徳宗の治世には一点の曇りもあってはならない。ましてや、自分がその曇りとなるようなことは断じてあってはならないことだ。

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