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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第9章  MooN Light

「お願いだ、莉彩。正直に応えてくれぬか。そなたは私の妻だった女だ。いや、今でも私はそなたを我が妻だと思うている。私は、そなたが良人のある身で他の男と通ずるような女ではないと知っておる。そなたが子どもを連れているのは何故なのだ? その子の父はどこの誰なのか。私には真実を話して欲しい」
 莉彩は何か言おうとして口を動かした。
 結局、それは言葉にはならず、莉彩は小さく胸を喘がせた。
 その眼からひと粒の涙がこぼれ落ちる。
「わ、私は」
 うつむくと、か細い声で続けた。
「私は、あちらの世界に戻ってから、別の男と関係を持ちました。殿下にお逢いできない淋しさから、つい、別の殿方と拘わってしまったのです。この子は、その男との間の子どもです」
 心ない科白を次々と口に乗せる莉彩の心の方が血の涙を流している。
 大好きな男をこれ以上ないというほど容赦なく傷つけた―。
 莉彩は叶うものなら、この場から消えていなくなってしまいたかった。
「―!」
 しばらく徳宗から声はなかった。
 その精悍な頬にひとすじの涙がつたい落ちる。徳宗はしばらく眼を瞑り、何かに懸命に耐えるような表情で唇を噛んでいた。握りしめた両の拳が小刻みに震えていた。
 いかほど経ったろう。莉彩には拷問にも等しい沈黙の刻が流れ。
 ゆっくりと開いた徳宗の眼が怒りにきらめいた。莉彩に向けた笑みは焔も凍るほど冷たいものだった。
「そなたを信じて四年間、待ち続けた結末がこれだ。たとえどれほど離れようと、心は互いのすぐ傍にある―、そなたと交わした約束を私はとても大切なものだと思ってきた。しかし(ハオナ)、そなたにとって、あの約束は所詮、守るだけの価値もない、つまらぬものだったというわけだ。全くとんだお笑いぐさだな。何から何まで、とんだ茶番ではないか。どこもかしこも下手くそな頭の悪い書き手が考えた三文芝居のようだ」
 尖った言葉を次々に繰り出してゆく王は、莉彩がかつてよく知る男とは別人のようだった。それらの言葉のつぶては剣の刃のように莉彩の胸を鋭く刺し貫き、深く抉った。
 徳宗は真冬の湖のように冷え冷えとしたまなざしで莉彩を射竦めた。

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