
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第10章 New MooN
莉彩を見つめる国王の眼が愕きに見開かれた。
「よくもそのような口が予にきけたものだ。全く呆れて物が言えぬぞ、孫淑容。密通した科人の身でありながら、裏切られた予に姦夫の子を助けろと生命乞いするとは」
その時、王は莉彩が許しを乞い、自らの生命請いをするものだとばかり思い込んでいた。だが、女の唇から零れ落ちたのは、自分はどうなっても良いから、姦夫の子どもだけは助けよというものだった。
屈辱と怒りに王の端整な貌が歪む。
流石に徳宗もここまで追い込まれては、沈着さを保つことは難しかったようだ。
―何故だ、何故、この女は泣き叫んで生命請いをしようとはせぬ、許しを乞おうとはせぬ。
王の瞳に烈しい憎悪と怒りが閃いた。
徳宗はこの瞬間まで、莉彩が今宵、素直に謝罪すれば、許してやるつもりでさえいたのだ。本来なら二十有余年前に伊淑儀に毒杯を呑むように命じたように、莉彩にも死を与えるべきだとは判っている。
しかし、情けないことに、徳宗は莉彩を殺せなかった。未練な男、腑抜けと嘲笑われるだろうが、自分を裏切り間夫と乳繰り合った妻にまだこの期に及んで未練があったのだ。
だが、莉彩は謝るどころか、姦夫の子どもの生命を助けよと徳宗に迫る。
徳宗の脳裡に、あの子ども―莉彩の生んだ子の顔が浮かんだ。歳は三歳だと聞いたが、なかなか利発そうな面立ちの良い子だ。しかしながら、あの子は姦夫の種であり、裏切られた徳宗にとってみれば、妻が犯した許しがたい過ちの象徴でもある。
莉彩はともかく、あんな子どもなぞ、さっさと殺してしまえば良い。幾度もそう思ったが、これもやはりできなかった。子どもに情があるわけでもないし、可愛いわけでもない。あの子どもを殺せば、莉彩がどれほど嘆き哀しむかは判っていたからだ。
ここまで決定的に裏切られたというのに、徳宗はまだ莉彩に対して憐憫の情を感じていた。その事実が、徳宗自身を余計に苛だたせていた。
徳宗は冷え切った声音で莉彩に問いかける。
「もう一度だけ、訊ねる。あの子の父親はどこの誰だ?」
莉彩はかすかにかぶりを振る。
「存じ―ませぬ」
もとより、王もここまで来て、莉彩が相手の男の名を白状するとは思っていない。
「よくもそのような口が予にきけたものだ。全く呆れて物が言えぬぞ、孫淑容。密通した科人の身でありながら、裏切られた予に姦夫の子を助けろと生命乞いするとは」
その時、王は莉彩が許しを乞い、自らの生命請いをするものだとばかり思い込んでいた。だが、女の唇から零れ落ちたのは、自分はどうなっても良いから、姦夫の子どもだけは助けよというものだった。
屈辱と怒りに王の端整な貌が歪む。
流石に徳宗もここまで追い込まれては、沈着さを保つことは難しかったようだ。
―何故だ、何故、この女は泣き叫んで生命請いをしようとはせぬ、許しを乞おうとはせぬ。
王の瞳に烈しい憎悪と怒りが閃いた。
徳宗はこの瞬間まで、莉彩が今宵、素直に謝罪すれば、許してやるつもりでさえいたのだ。本来なら二十有余年前に伊淑儀に毒杯を呑むように命じたように、莉彩にも死を与えるべきだとは判っている。
しかし、情けないことに、徳宗は莉彩を殺せなかった。未練な男、腑抜けと嘲笑われるだろうが、自分を裏切り間夫と乳繰り合った妻にまだこの期に及んで未練があったのだ。
だが、莉彩は謝るどころか、姦夫の子どもの生命を助けよと徳宗に迫る。
徳宗の脳裡に、あの子ども―莉彩の生んだ子の顔が浮かんだ。歳は三歳だと聞いたが、なかなか利発そうな面立ちの良い子だ。しかしながら、あの子は姦夫の種であり、裏切られた徳宗にとってみれば、妻が犯した許しがたい過ちの象徴でもある。
莉彩はともかく、あんな子どもなぞ、さっさと殺してしまえば良い。幾度もそう思ったが、これもやはりできなかった。子どもに情があるわけでもないし、可愛いわけでもない。あの子どもを殺せば、莉彩がどれほど嘆き哀しむかは判っていたからだ。
ここまで決定的に裏切られたというのに、徳宗はまだ莉彩に対して憐憫の情を感じていた。その事実が、徳宗自身を余計に苛だたせていた。
徳宗は冷え切った声音で莉彩に問いかける。
「もう一度だけ、訊ねる。あの子の父親はどこの誰だ?」
莉彩はかすかにかぶりを振る。
「存じ―ませぬ」
もとより、王もここまで来て、莉彩が相手の男の名を白状するとは思っていない。
