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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第10章 New MooN

 自分にとって真に大切なこと、自分の進むべき道とは一体、何なのだろう。四年前、莉彩は徳宗のゆく手を阻む存在になりたくはないと考え、現代に還る覚悟を決めた。そして、今回もまた不可思議な縁(えにし)によって引き寄せられ、幾つもの時代を超え、この時代に辿り着いたのだ。
 恐らく、老人の言うことは正しいのだろう。幾ら引き離されたとしても、莉彩と徳宗はまた出逢うように運命づけられているのだ。
 老人がそのための重要な役割を果たしていることは判っている。徳宗と自分を結びつける縁の糸は、天が与え給うたもの。天が定めた縁を断ち切ることは誰にも、たとえ当人同士によってもできない。
 何より莉彩の心は、こんなにも徳宗を求めている。これほど酷い仕打ちを受けながらも、なお、あの男を求めてやまない。恋しい気持ちを棄てきれない。
 いっそのこと聖泰が徳宗の子だと告げれば、徳宗はすぐに誤解を解き、莉彩に昔のように優しい笑みを見せてくれるだろう。だが、それは莉彩の望むことではない。自分の身の安寧のために、徳宗やその未来を台無しにしようとは思わない。たとえ誤解されたままでも、徳宗には後世まで語り継がれる聖君としての道をまっとうして欲しい。
 莉彩は老人の手紙を胸に抱き、すすり泣いた。どうしても切れない縁の糸ならば、この生命を絶てば、断つことはできるのだろうか。でも、莉彩が死ねば、聖泰はたった一人、この時代に残されてしまう。我が子をこの時代に置いて、生命を棄てることはできない。
 莉彩の心は千々に乱れ、揺れる。
 そのときだった。
「お母さん(オモニ)、どうしたの?」
 部屋の扉が勢いよく開き、聖泰が飛び込んできた。
 莉彩は慌てて人さし指で涙をぬぐう。
 聖泰が愕いたように眼をまたたかせた。
「お母さん、泣いてるの?」
「ううん、何でもないのよ」
 莉彩が首を振って微笑むと、聖泰は、むうと可愛らしい口を膨らませた。
「お母さんは、ここに来てから、泣いてばかりいるよ。どうして?」
 幼い彼がタイムトリップをどのように受け止めているのかは判らない。莉彩は聖泰に、理由があって、しばらくここ―これまで住んでいた町からは遠く離れた土地に住むことになるのだとだけ話している。

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