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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第10章 New MooN

「聖泰」
 莉彩が窘める口調でなおも強く言うのに、徳宗は苦笑いを浮かべた。
「構わぬ」
 徳宗は鷹揚に言い、聖泰に向かって気軽に話しかけた。
「女官と遊ぶのは愉しいか?」
 しかし、聖泰は何も応えず、莉彩の手を乱暴に振りほどくと、ブイと部屋を出ていってしまった。
「聖泰、待ちなさい!」
 莉彩は叫んだが、時遅く、扉はパタンと音を立てて閉まった。
「申し訳(ハンゴン)ござい(ハオ)ません(ニダ)」
 莉彩は頭を垂れた。徳宗は普段、聖泰には寛容に接しているものの、聖泰を莉彩が密通した男の子だと信じているのだ。反抗的な態度を取り続ければ、いつ徳宗が腹立ちのあまり聖泰を罰さないとも限らない。
「気にする必要はない」
 徳宗は短く言うと、莉彩を改めて見つめる。
「香草茶が飲みたいのだが」
「は、はい」
 莉彩は傍らの小卓を引き寄せ、お茶を淹れる準備を始めた。その間、徳宗は所在なげに部屋の内を見回している。
 ふと床に置いてあったリラの簪に眼を止め、拾い上げた。
「この簪は、りらの花だな」
 徳宗は簪を手のひらで弄びながら、囁くような声で呟いた。
 香草茶は臨淑妍から教えられた徳宗の大好物である。淹れ方にもコツがあるのだが、以前、徳宗は莉彩の部屋を訪れては香草茶を飲むのを日課のようにしていた。
 今回、入宮してからは初めてのことである。大体、徳宗がこの部屋を訪れるのは深夜、莉彩を抱くのが目的のときだけに限られていた。このように昼間、訪れるのは異例のことだった。
 莉彩はゆっくりと時間をかけて香草茶を淹れ、ポットから湯呑みへとお茶を注ぐ。
 徳宗は莉彩の淹れた香草茶をゆっくりと飲んだ。ひと口めはゆっくりと、ふた口めからはいかにも美味そうに喉を鳴らして呑むのは変わらない。
 莉彩は懐かしさに涙が零れそうになった。
 こうして二人だけでゆっくりとした時間を過ごしていると、何もかもが昔のままのようだ。
 徳宗が簪を脇に置き、ふいに莉彩の方に手を伸ばしてきた。

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