テキストサイズ

約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第1章 邂逅~めぐりあい~

「とにかく、私の知り合いの家に案内しよう。その珍妙な服はあまりにも目立ちすぎる」
 男のまなざしにはあからさまな好奇心があった。
 今日は慎吾と一ヵ月ぶりに逢う約束をしていたのだ。莉彩は精一杯、おめかししてきたつもりだった。アイボリーのコットンのカットソーにざっくりとした薄手のニットのチュニック。チュニックの色はパステルピンクで決めてみた。ボトムは膝より少し上のフレアースカートで紺地に白い小花が散っている。オーガンジーのふんわりとした生地が優雅さを出してくれる。
「その、何というか、珍しいだけでなく、あまりに刺激的だ」
 男の視線が莉彩の剥き出しになった、すんなりとした白い脚に注がれている。現代ではこれが普通で、特に刺激的などではないが、はるか昔の朝鮮王朝時代では確かにそう言われても仕方ない。
「眼のやり場に困るのだ」
 そういえば、先刻、ぶつかりそうになった若い男もいやにじろじろと脚の方ばかり見ているなと気になっていたけれど、まさか、この格好が刺激的すぎるからだとは思わなかった。
「私が生きる時代では、これが普通なのに」
 国ばかりか、時代まで違うとなれば、見るもの聞くものすべてが違っていて当然。とはいえ、あまりにも苛酷すぎる現実に、莉彩は思わず涙が滲んできた。
「どうした、泣いているのか?」
 男の声音に狼狽が混じった。
「いや、済まなかった。悪気があったわけではないのだが、そのような目立つなりをしていると、そなたの身の危険にもなるゆえ、申したのだ」
 男は莉彩の手を掴んだ。
「とにかく、早く行こう」
 確かに莉彩の格好は、道行く人の興味の対象となるらしく、殊に男たちの視線は莉彩の脚許に釘付けになっている。
 男に半ば引っ張られるようにして連れてゆかれたのは、町中にある立派な屋敷だった。
 これもまたドラマに登場するような代表的な朝鮮時代の建築で、塀にぐるりと四方を囲まれた屋敷には両開きの門があり、そこから邸内に入るようになっている。屋敷の扉や柱のあちこちに〝寿永長福〟とか書かれた縁起の良いお札が貼り付けてある。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ