
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第1章 邂逅~めぐりあい~
男の身なりから、相当の地位にある人だろうとは察しをつけていたが、このような立派な屋敷に住まう知り合いを持つからには、やはり男自身も身分のある人物なのだろう。
「臨尚宮(イムサングン)、臨尚宮」
男が声高に呼ばわると、ほどなく屋敷内から一人の女性が現れた。
「まぁ、これはチュ―」
言いかけた女性に向かい、男はシッと人さし指を唇に当てた。
「莉彩(イチェ)。この者は、かつて私の乳母を務めていた者で、臨淑妍(イムスクヨ)という。信頼できる人だから、ここにいる間は何でも相談すれば良い」
男は気軽に女性を紹介すると、淑妍に言った。
「少し部屋を借りたい。後は、この娘に何か着るものを適当に準備してやってくれ」
「畏まりました(イエ)」
淑妍は頷き、侍女を呼ぶと、二人を部屋に案内するように言いつけた。
通された先は、ゆうに十畳の広さはある室であった。
蓮の花が墨絵で描かれた衝立や、色目も鮮やかな座椅子は、やはりこの世界が紛れもなくかつて栄えた華やかな王朝時代であることを物語っている。
両開きの扉が静かに閉まり、侍女が去ってゆくのを見届けた上で、男が口を開いた。
「莉彩、そなたの身の上話をもう少し詳しく聞かせてくれぬか」
上座に座った男から少し離れた場所に向かい合うような形で、莉彩は座った。その時、先刻の若い侍女が再び戻ってきて、莉彩は別室に案内される。そこで侍女に手伝って貰い、用意された衣裳に着替えた。
眼の前の大きな鏡に映ったのは、まるで見たこともない少女だった。チマチョゴリと呼ばれる韓国の民族衣装で、これも時代劇でよく見るものだ。白地に大きめの紅や黄色の花が散ったチョゴリに、下のチマは紫に近い濃いピンク。チマには全体的に桜の花に似た模様が織り出されている。
うっすらと化粧まで施された。髪は特に直す必要がないと言われ、そのままにしておくことになった。元々、韓国人と日本人は外国人同士とはいえ、外見的には全く区別がつかない。だから、こうしてこの時代の女性の衣裳を着ると、元からこの世界で暮らしていた人間のようにしか見えない。
用意が調い、侍女に案内され再び元の室に戻った。
「臨尚宮(イムサングン)、臨尚宮」
男が声高に呼ばわると、ほどなく屋敷内から一人の女性が現れた。
「まぁ、これはチュ―」
言いかけた女性に向かい、男はシッと人さし指を唇に当てた。
「莉彩(イチェ)。この者は、かつて私の乳母を務めていた者で、臨淑妍(イムスクヨ)という。信頼できる人だから、ここにいる間は何でも相談すれば良い」
男は気軽に女性を紹介すると、淑妍に言った。
「少し部屋を借りたい。後は、この娘に何か着るものを適当に準備してやってくれ」
「畏まりました(イエ)」
淑妍は頷き、侍女を呼ぶと、二人を部屋に案内するように言いつけた。
通された先は、ゆうに十畳の広さはある室であった。
蓮の花が墨絵で描かれた衝立や、色目も鮮やかな座椅子は、やはりこの世界が紛れもなくかつて栄えた華やかな王朝時代であることを物語っている。
両開きの扉が静かに閉まり、侍女が去ってゆくのを見届けた上で、男が口を開いた。
「莉彩、そなたの身の上話をもう少し詳しく聞かせてくれぬか」
上座に座った男から少し離れた場所に向かい合うような形で、莉彩は座った。その時、先刻の若い侍女が再び戻ってきて、莉彩は別室に案内される。そこで侍女に手伝って貰い、用意された衣裳に着替えた。
眼の前の大きな鏡に映ったのは、まるで見たこともない少女だった。チマチョゴリと呼ばれる韓国の民族衣装で、これも時代劇でよく見るものだ。白地に大きめの紅や黄色の花が散ったチョゴリに、下のチマは紫に近い濃いピンク。チマには全体的に桜の花に似た模様が織り出されている。
うっすらと化粧まで施された。髪は特に直す必要がないと言われ、そのままにしておくことになった。元々、韓国人と日本人は外国人同士とはいえ、外見的には全く区別がつかない。だから、こうしてこの時代の女性の衣裳を着ると、元からこの世界で暮らしていた人間のようにしか見えない。
用意が調い、侍女に案内され再び元の室に戻った。
