
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第10章 New MooN
刹那、莉彩の顔が硬くなったことに、大妃が気付かぬはずはなかった。だが、老獪な大妃は何も知らぬ風を装い、穏やかに続ける。
「あの子どもは三歳というではないか。そなたが後宮から黙って姿を消した時期と考え合わせれば、殿下のお種だとしても、不思議はないと思うが」
「いいえ、そのようなことがあるはずもございませぬ。あの子が畏れ多くも国王殿下の血を引くなどと、あまりにも滅相にもないことにございます、大妃さま」
莉彩は声を震わせまいとするのに懸命だった。少しの動揺も見せてはならないと感情を抑えるのに必死になる。
「まあ、それも良かろう」
色を失った莉彩を面白げに眺め、大妃は肩をすくめた。
「ここからが本題だ。今日、私がそなたを呼んだのは、このことを話すためなのだ」
大妃が頷いて見せると、孔尚宮が立ち上がり、崔尚宮に外に出るように促した。
気遣わしげに莉彩を見つめる崔尚宮に向かって、大妃は少し意地悪げな笑みを浮かべた。
「心配せずとも良い。そなたの大切な主人を取って喰うたりはせぬゆえ」
「崔尚宮、私なら大丈夫です」
莉彩が眼顔で
―大妃さまのお言葉に従うように。
と命ずると、崔尚宮はそれでもまだ心残りといった風情で渋々部屋を出ていった。
崔尚宮だけかと思ったら、続いて孔尚宮まで出てゆき、室内は大妃と莉彩の二人だけになった。人払いをしてまでする大切な話なのだろうか。
莉彩が不審に思っていると、大妃が手招きする。一瞬、鞭打たれたときのことが記憶に甦ったが、逆らうすべもない。莉彩は大妃の御前に膝を進めた。
「時に、そなたは、たいむとらべらーであると聞いたが、真のことなのか?」
「それは―」
莉彩は我が耳を疑った。今、大妃は何と言った?
何故、どうしてという問いが堂々巡りをする。
混乱する莉彩を前に、大妃は婉然とした笑みを刻む。
「淑容は、どうやら臨尚宮を随分と買い被っているようだ。いや、買い被っているという言い方は適切ではないやもしれぬな。見くびっている―と申した方が良かろう」
「あの子どもは三歳というではないか。そなたが後宮から黙って姿を消した時期と考え合わせれば、殿下のお種だとしても、不思議はないと思うが」
「いいえ、そのようなことがあるはずもございませぬ。あの子が畏れ多くも国王殿下の血を引くなどと、あまりにも滅相にもないことにございます、大妃さま」
莉彩は声を震わせまいとするのに懸命だった。少しの動揺も見せてはならないと感情を抑えるのに必死になる。
「まあ、それも良かろう」
色を失った莉彩を面白げに眺め、大妃は肩をすくめた。
「ここからが本題だ。今日、私がそなたを呼んだのは、このことを話すためなのだ」
大妃が頷いて見せると、孔尚宮が立ち上がり、崔尚宮に外に出るように促した。
気遣わしげに莉彩を見つめる崔尚宮に向かって、大妃は少し意地悪げな笑みを浮かべた。
「心配せずとも良い。そなたの大切な主人を取って喰うたりはせぬゆえ」
「崔尚宮、私なら大丈夫です」
莉彩が眼顔で
―大妃さまのお言葉に従うように。
と命ずると、崔尚宮はそれでもまだ心残りといった風情で渋々部屋を出ていった。
崔尚宮だけかと思ったら、続いて孔尚宮まで出てゆき、室内は大妃と莉彩の二人だけになった。人払いをしてまでする大切な話なのだろうか。
莉彩が不審に思っていると、大妃が手招きする。一瞬、鞭打たれたときのことが記憶に甦ったが、逆らうすべもない。莉彩は大妃の御前に膝を進めた。
「時に、そなたは、たいむとらべらーであると聞いたが、真のことなのか?」
「それは―」
莉彩は我が耳を疑った。今、大妃は何と言った?
何故、どうしてという問いが堂々巡りをする。
混乱する莉彩を前に、大妃は婉然とした笑みを刻む。
「淑容は、どうやら臨尚宮を随分と買い被っているようだ。いや、買い被っているという言い方は適切ではないやもしれぬな。見くびっている―と申した方が良かろう」
