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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第10章 New MooN

「仰せの意味がよく判りかねます」
 莉彩が無難に応えると、大妃は含み笑いをした。
「では、有り体に申そう。臨尚宮が昨日、私を訪ねて参った。何事かと私も訝しんだが、何とも面白き話をしていきおったわ」
 大妃はふと口をつぐみ、真顔になった。
「淑容、私は臨尚宮の話をすべて頭から信じたわけではない。この世にそのような荒唐無稽な芝居じみた話があるなぞ、むしろ信じる方が愚かだとも思う。だが、すべてが真実ではないとしても、そなたがこの国ではなく、別の国―倭国より参ったという話は信じるだけの価値はあろう。出宮していた四年間、そなたが遠い故国(くに)に帰っていたとすれば、その間の消息も手がかりも全く掴めなかった理由も自ずと察せられるというものだ」
 大妃は淡々と話す。
「臨尚宮は私などより、よほど空恐ろしきおなごよ。目的を遂げるためには、およそどのような手段でも使う。宿敵であるはずの私のに許にいきなり飛び込み、そなたの秘密を余すところなく暴露してゆくのだからな、流石の私も開いた口が塞がらなんだわ。淑容、臨尚宮は、そなたをこの国に永遠にとどめておきたいと考えている。そして、その想いはこの私も同じ。それゆえ、あの女は私の心を見抜いた上で、ここに乗り込んできたのだ」
 莉彩は、信じられなかった。淑妍はともかく、この大妃が自分をこの国にとどめておきたがっているなんて、誰が信じられるというのか! あれほど莉彩を邪魔者扱いし、徳宗の妃とは認めぬと言い張った女なのだ。
 フ、と大妃が乾いた笑いを洩らした。
「そなたは、どうも大きな勘違いを致しておるようだ。私はかつて王妃、中(チユン)殿(ジヨン)であった。かつての国母として、私が憎しみよりもまず先に考えねばならぬことがある。それが何か、そなたには判るか?」
 王室の存続。声には出さずとも、莉彩にはすぐに判った。その莉彩の心を見透かしたように、大妃が微笑する。
「利発なそなただ、私の言わんとしていることなど、すぐに判るはずだ。このままでは、殿下にお子の無きままで終わることになってしまう。王族は何人もおるゆえ、王位を継ぐ者が全くいなくなるわけではない。しかし、私としては、亡き先王さまのご意向を尊重し、直系の王子に跡目を継いでいって欲しい。殿下のお心を動かす女が最早、そなたしかおらぬと判った今、淑容を故国に帰してやることはできぬ」

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