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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第11章 Half MooN

 食事が和やかな雰囲気で終わると、今度は酒肴が出され、いつしか年頃の若い女官が傍に控えていた。すっかり盃を重ねていた彼は、彼女がいつ部屋に入ってきたのかも判らないほど既に酔っていた。
 あのままであれば、大妃は徳宗を毒殺なり刺殺なり、どうでもすることができただろう。普段は相当量呑んでも酔わないし、ここまで酔うほど呑むことはない。ましてや、大妃殿で正体を失うほど泥酔するとは不覚中の不覚といえた。
 しかし、昨夜の大妃は用心深い王をそこまで油断させるほど友好的であり、長年の憎しみとわだかまりもどこかに捨て去ったかに見えた。徳宗もやはり、大妃の変わり様が嬉しかったのだ。
 すっかり酔ってしまった徳宗を大妃は引き止め、今宵はここでお寝みになってはと勧めた。その辺りまでは朧な記憶があるが、後はずっと傍に侍っていた女官に脇から支えられ、急遽設えられた寝所へと入ったらしい。
 そしてすぐに熟睡してしまった彼が明け方になって目ざめた時、隣には例の若い女官が同衾していたというわけだ。女官はチョゴリとその下の上着を脱いで、あられもない下着姿になっていたが、徳宗は別に欲情もせず彼女を抱きたいとも思わなかった。
 男として見ても、魅力的な娘だったと思う。若く弾力のある艶やかな膚は白く、胸の膨らみも十分豊かだった。
 だが、莉彩の他に抱きたい女はいない。他の女など要らないのだ。徳宗は目ざめるなり、唖然とする女官をその場に残し、大殿に戻った。
 今頃、大妃は何と甲斐性なしの男よと高笑いして、笑い転げているに相違ない。大妃としては柄にもなく親心を発揮して、義理の息子のために新しい女を見繕ってやったつもりだろうが、肝心の不肖の息子は女を相手にその気になれなかったのだ。
 今日中には国王はついに男性機能を失ったなどと実に不名誉な噂が宮殿中を駆けめぐることになるのだろう! 大臣や重臣たちは額を寄せ合い、これで世子となる王子誕生の望みもついに断たれたと訳知り顔で囁き合うに違いない。
 あれほどの美貌で豊かな身体を持つ娘を袖にする男など、おそよこの世にはおるまい。ただ一人の例外を除いては。
 まあ、男としてはあまり愉快な話ではないが、言いたい者には好きなだけ言わせておけば良い。

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