
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第11章 Half MooN
徳宗は思い出し笑いをおさめると、内官や尚宮たちの待つ方へと元来た道を戻りかけた。その時、逆方向から見憶えのある顔がやって来るのが見えた。
かつて孫淑容に仕えていた崔尚宮である。
孫淑容こと莉彩が再びかき消すようにいなくなって、既に二年の月日を数えていた。最初、徳宗は莉彩がまた現代に還ったのかとも思った。が、すぐにその考えを打ち消した。
言葉では言い表せないもの―、何らかの勘が莉彩はまだこの時代にいると告げていた。徳宗には判る。たとえどんな状況にあろうと、あの女が自分からさほど遠くない場所、つまり自分が生きるこの時代、逢おうと思えば逢える同じ空間にいると。
理屈ではない。感覚で察知できるのだ。思えば、それが莉彩と自分が数奇な縁で結ばれている証だといえるのかもしれない。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)。こちらにいらっしゃったのでございますか。少々お話したいことがございますが、お時間を頂いてもよろしいでしょうか」
徳宗の乳母であった臨尚宮とも親しく、比較的穏やかな人柄の崔尚宮に徳宗は信頼を寄せている。上宮の尚宮であることを鼻に掛け権高にふるまう劉尚宮や孔尚宮よりはよほど好感が持てる。
控えめに言上する崔尚宮に対して、徳宗は鷹揚に応えた。
「ああ、構わぬ。話してみよ」
崔尚宮は、少し先の大殿内官や劉尚宮をチラリと見やった。
「心配なかろう、これだけ離れていれば、話は届かぬはずだ」
徳宗が事もなげに言うと、崔尚宮は頭を下げた。
「畏れ入りましてございます」
崔尚宮は恐縮した様子を見せ、慎重に話を切り出した。
「この秘密は私が墓の中にゆくまで一生涯胸に秘めておこうと思っていたのでございますが、殿下が長らくお悩みのご様子でしたので」
更に崔尚宮が話したのは、まさに徳宗にとっては天地が引っ繰り返るほどの愕きであった。あろうことか、彼女は莉彩が六年前の失跡当時、身籠もっていたと告げたのである。
「それでは、そなたは六年前、莉彩がいなくなった当時、懐妊していたと申すのか?」
徳宗が念を押すと、崔尚宮は深く頷いた。
かつて孫淑容に仕えていた崔尚宮である。
孫淑容こと莉彩が再びかき消すようにいなくなって、既に二年の月日を数えていた。最初、徳宗は莉彩がまた現代に還ったのかとも思った。が、すぐにその考えを打ち消した。
言葉では言い表せないもの―、何らかの勘が莉彩はまだこの時代にいると告げていた。徳宗には判る。たとえどんな状況にあろうと、あの女が自分からさほど遠くない場所、つまり自分が生きるこの時代、逢おうと思えば逢える同じ空間にいると。
理屈ではない。感覚で察知できるのだ。思えば、それが莉彩と自分が数奇な縁で結ばれている証だといえるのかもしれない。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)。こちらにいらっしゃったのでございますか。少々お話したいことがございますが、お時間を頂いてもよろしいでしょうか」
徳宗の乳母であった臨尚宮とも親しく、比較的穏やかな人柄の崔尚宮に徳宗は信頼を寄せている。上宮の尚宮であることを鼻に掛け権高にふるまう劉尚宮や孔尚宮よりはよほど好感が持てる。
控えめに言上する崔尚宮に対して、徳宗は鷹揚に応えた。
「ああ、構わぬ。話してみよ」
崔尚宮は、少し先の大殿内官や劉尚宮をチラリと見やった。
「心配なかろう、これだけ離れていれば、話は届かぬはずだ」
徳宗が事もなげに言うと、崔尚宮は頭を下げた。
「畏れ入りましてございます」
崔尚宮は恐縮した様子を見せ、慎重に話を切り出した。
「この秘密は私が墓の中にゆくまで一生涯胸に秘めておこうと思っていたのでございますが、殿下が長らくお悩みのご様子でしたので」
更に崔尚宮が話したのは、まさに徳宗にとっては天地が引っ繰り返るほどの愕きであった。あろうことか、彼女は莉彩が六年前の失跡当時、身籠もっていたと告げたのである。
「それでは、そなたは六年前、莉彩がいなくなった当時、懐妊していたと申すのか?」
徳宗が念を押すと、崔尚宮は深く頷いた。
