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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第11章 Half MooN

 丁度、莉彩の住まいへと続く道が二股に分かれる場所で、目印の大銀杏の樹が黄金色の葉を茂らせていた。
「おばちゃん、おばちゃん」
 その女の子は趙家の次女で、聖泰とは同い年になる。
「どうしたの、尚(サン)花(ファ)ちゃん」
 尚花もまた莉彩から字を教わっている。売られていった少女たちも皆、頻繁とはゆかないが、教室に顔を見せていた子たちばかりだった。あのまだあどけない娘たちが妓楼に売られていったのだと考えると、莉彩は気が重くやり切れなかった。
 今日は大きい年代の子どもたち対象の日で、尚花のような幼い子の日ではない。
「大変なんだよ、聖泰ちゃんが樹から落っこちたの」
「え―」
 莉彩は固まった。身体中の血が沸騰するのではないかと思うほど狼狽える。
「今、おじちゃんのところには、うちのお兄ちゃんが知らせにいってる」
 莉彩は尚花の後について走った。
―どうか南無観世音菩薩、聖泰を助け給え。
 心の中で祈りながら、走った。
 どうやら、子どもたちは村の背後の山に登ったらしい。山といっても、小高い丘程度のもので、てっぺんに柿の樹が一本、植わっている。聖泰はその樹に上って、熟した柿の実を取っていたようだ。
 莉彩が駆けつけた時、既に徳宗はその場に来ていた。柿の樹の下に聖泰がぐったりと横たわっている。その周囲を数人の子どもたちが取り囲んでいた。倒れた聖泰の傍に、真っ赤に熟れた柿が数個、転がっていた。
 その鮮やかな色が我が子の血の色に思え、莉彩は思わず眼を背けた。
 女の子の中には泣いている子もいる。
「旦那さま」
 莉彩が悲鳴のような声を上げると、徳宗が鬼気迫る形相で振り向いた。
「とにかく家へ連れて帰る」
 意識を失った聖泰の身体を抱き上げると、徳宗はゆっくりと山を降り始めた。
 家に帰り、布団を敷いて寝かせると、徳宗は難しい顔で呟いた。

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