
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第11章 Half MooN
「村には医者がおらぬ。目立った外傷はないが、どうも頭を強く打ったらしい。趙家の夫人に訊ねたところ、いちばん近い村まで馬を使えば、半日で行ってこられるそうだ。そこには医者がいるというから、これよりすぐに参る。私が帰るまで、聖泰を頼む」
「―はい」
莉彩は心細い想いで応えた。
それから徳宗が帰ってくるまで、莉彩には、まるで時計の針が永遠に止まったかのように果てしなく長い時間が続いた。
昏々と眠り続ける聖泰の枕辺で莉彩は一睡もせずに夜を明かした。
その朝、趙家の尚花が顔を覗かせた。
お見舞いのつもりなのだろう、手には野道で摘んだ白い花が一輪握られている。
「おばちゃん、これね。聖泰ちゃんが昨日、落としたんだよ」
尚花の話によれば、聖泰が樹から落ちたのは、そのせいであったという。聖泰が懐にしまい込んでいたそれを落とし、慌てて拾おうとして、脚をすべらせたのが落下の原因だった。
「これは」
莉彩は尚花から受け取った品―玉牌を手のひらに乗せ、茫然と呟いた。
その玉牌はかつて都を落ちる際、金大妃から与えられたものだ。これを持っている限り、朝鮮王室を繋ぐ正統な王位継承者であることを証明するという大切なものだ。
聖泰は子どもなりに、これが大切な品だと認識していた。だからこそ、落としてしまったことで慌てたに違いない。
礼を言って尚花を帰してから、莉彩は玉牌を握りしめ、すすり泣いた。翡翠で拵えられた円形の玉牌は繊細で複雑な模様が刻まれている。翡翠を彫った飾りの下に色鮮やかな長い房がついており、聖泰は文字どおり宝物のように大切にしていた。
尚花が帰ってから二時間ほどして、徳宗が隣村から医者を連れて帰ってきた。しかし、横たわったままの聖泰を診て、沈痛な表情で首を振った。
やはり、徳宗が予想したとおり、聖泰は落下した際、地面で後頭部を強く打ちつけたらしい。中で内出血を起こし、その血が固まって悪さをしているのだと、まだ若い医者はそう語った。
もうできることは何もない―、それが医者の診立てであった。最早、幼い生命の焔が燃え尽きてゆくのを黙って見ているしかないのか。
「―はい」
莉彩は心細い想いで応えた。
それから徳宗が帰ってくるまで、莉彩には、まるで時計の針が永遠に止まったかのように果てしなく長い時間が続いた。
昏々と眠り続ける聖泰の枕辺で莉彩は一睡もせずに夜を明かした。
その朝、趙家の尚花が顔を覗かせた。
お見舞いのつもりなのだろう、手には野道で摘んだ白い花が一輪握られている。
「おばちゃん、これね。聖泰ちゃんが昨日、落としたんだよ」
尚花の話によれば、聖泰が樹から落ちたのは、そのせいであったという。聖泰が懐にしまい込んでいたそれを落とし、慌てて拾おうとして、脚をすべらせたのが落下の原因だった。
「これは」
莉彩は尚花から受け取った品―玉牌を手のひらに乗せ、茫然と呟いた。
その玉牌はかつて都を落ちる際、金大妃から与えられたものだ。これを持っている限り、朝鮮王室を繋ぐ正統な王位継承者であることを証明するという大切なものだ。
聖泰は子どもなりに、これが大切な品だと認識していた。だからこそ、落としてしまったことで慌てたに違いない。
礼を言って尚花を帰してから、莉彩は玉牌を握りしめ、すすり泣いた。翡翠で拵えられた円形の玉牌は繊細で複雑な模様が刻まれている。翡翠を彫った飾りの下に色鮮やかな長い房がついており、聖泰は文字どおり宝物のように大切にしていた。
尚花が帰ってから二時間ほどして、徳宗が隣村から医者を連れて帰ってきた。しかし、横たわったままの聖泰を診て、沈痛な表情で首を振った。
やはり、徳宗が予想したとおり、聖泰は落下した際、地面で後頭部を強く打ちつけたらしい。中で内出血を起こし、その血が固まって悪さをしているのだと、まだ若い医者はそう語った。
もうできることは何もない―、それが医者の診立てであった。最早、幼い生命の焔が燃え尽きてゆくのを黙って見ているしかないのか。
