
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第11章 Half MooN
「これは天罰だわ。あなたに私が玉座を棄てさせた―、怖ろしい罪に御仏が罰を下されたのよ。あなたと出逢わなければ、あの子も生まれてくることはなかった。私の選んだ道はやっぱり、間違っていたのかもしれない」
莉彩はうろつなまなざしを宙にさまよわせ、うわ言のように呟き続ける。
それを聞く徳宗の瞳はひどく傷ついたように哀しげだった。
「莉彩、そのようなことを申すものではない。あの子が生まれてくることがなかったらなどとは、口が裂けても申すでない。あの子は短い一生ではあったが、精一杯生命の限り生きたのだ。利発な良い子であった。無事に生い立っておれば、必ずや賢君となっただろう。生まれてから五年もの間、あの子は両親である私たちに様々な歓びを与えてくれた。私たちはあの子が与え、残してくれた想い出を支えとして、これからも生きてゆこう」
莉彩がしゃくり上げた。
「殿下」
その胸に顔を押しつけ、莉彩は声が嗄れるまで泣いた。徳宗は大きな手のひらで莉彩の背中を撫で続ける。
あやすように、宥めるように。
時はゆるやかに流れる。
大切な者、愛しい者が亡くなっても、哀しみを呑み込んで時は過ぎ、流れゆく。
莉彩の日常は極めて平坦に過ぎていった。
朝、良人と二人で朝飯を終え、子どもたちに手習いを教える日は、村長の家まで出かける。
大勢の子どもたちを相手にしていると、聖泰を失った哀しみをも一時、忘れるようであった。
良人はかつては聖君と呼ばれその業績を讃えられた偉大な国王だった。
今はすべてを棄てて李光徳と名乗る彼は野良仕事に汗を流し、時には村の男たちと集まり、酒盛りに加わる。
莉彩もまた村の女たちと親しく交わり、農作業で忙しくて女たちが赤ン坊の世話ができないときは歓んで面倒を見た。
李光徳とその妻莉彩はいつのまにか小さな農村の住人となり、村の暮らしに溶け込んでいたのである。
その年もそろそろ終わりに近づいた真冬の初め、村に初雪が降った。
雪は降り止むことなく二日降り続け、三日めの朝には鄙びた村はうっすらと雪化粧を施され、幻想的な風景として生まれ変わった。
莉彩はうろつなまなざしを宙にさまよわせ、うわ言のように呟き続ける。
それを聞く徳宗の瞳はひどく傷ついたように哀しげだった。
「莉彩、そのようなことを申すものではない。あの子が生まれてくることがなかったらなどとは、口が裂けても申すでない。あの子は短い一生ではあったが、精一杯生命の限り生きたのだ。利発な良い子であった。無事に生い立っておれば、必ずや賢君となっただろう。生まれてから五年もの間、あの子は両親である私たちに様々な歓びを与えてくれた。私たちはあの子が与え、残してくれた想い出を支えとして、これからも生きてゆこう」
莉彩がしゃくり上げた。
「殿下」
その胸に顔を押しつけ、莉彩は声が嗄れるまで泣いた。徳宗は大きな手のひらで莉彩の背中を撫で続ける。
あやすように、宥めるように。
時はゆるやかに流れる。
大切な者、愛しい者が亡くなっても、哀しみを呑み込んで時は過ぎ、流れゆく。
莉彩の日常は極めて平坦に過ぎていった。
朝、良人と二人で朝飯を終え、子どもたちに手習いを教える日は、村長の家まで出かける。
大勢の子どもたちを相手にしていると、聖泰を失った哀しみをも一時、忘れるようであった。
良人はかつては聖君と呼ばれその業績を讃えられた偉大な国王だった。
今はすべてを棄てて李光徳と名乗る彼は野良仕事に汗を流し、時には村の男たちと集まり、酒盛りに加わる。
莉彩もまた村の女たちと親しく交わり、農作業で忙しくて女たちが赤ン坊の世話ができないときは歓んで面倒を見た。
李光徳とその妻莉彩はいつのまにか小さな農村の住人となり、村の暮らしに溶け込んでいたのである。
その年もそろそろ終わりに近づいた真冬の初め、村に初雪が降った。
雪は降り止むことなく二日降り続け、三日めの朝には鄙びた村はうっすらと雪化粧を施され、幻想的な風景として生まれ変わった。
