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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第11章 Half MooN

 雪が漸く止んだ朝、久しぶりに太陽が顔を出した。大人の膝上まで降り積もった雪は少々では溶けそうにもない。
 その雪に埋もれるようにして、その日、一人の女人が村を訪れた。村の主だった道は村の男たちが総出で雪かきをしているが、小柄な女性はそれでもうずたかく積もった雪に足を取られ、度々転びそうになり、到底、危なっかしくて見てられない。
 徳宗も皆に混じり、雪かき作業に加わったが、その帰り道、覚束ない脚取りで歩く女性を背後から見かけた。
 どうにも冷や冷やして見ていられないと思った時、女人の身体が大きく傾いだ。
「危ないッ」
 徳宗は叫び、慌てて彼女に駆け寄った。
 女性は外出用のコートの下に綿入りのチョッキを着込み、寒さに備え完全防備で来たらしい。その物々しいいでたちに徳宗は思わず笑い出しそうになった。
「大丈夫ですか? 雪道はよく滑るし、脚も取られやすいので、気をつけた方が良いですよ」
 年配の婦人と見られる女性に親切に告げた時、その女人が目深に被っていたコートをそっと持ち上げた。
「国王(チユサン)殿下(チヨナー)、お久しぶりでございます」
 にっこりと笑みを浮かべたその貌は見憶えがあるというどころではない。
「ユ、乳母(ユモ)」
 徳宗は思いがけない再会に言葉を失った。
「全く見違えるほどのお変わり様でございますこと。かつては王衣をその御身に纏って玉座にあられたお方が今や野良着と王冠の代わりには襤褸布を頭に巻いていらっしゃるのでございますから」
「―相変わらず皮肉が上手いな、乳母は」
 苦笑する徳宗を、臨淑妍は軽く睨んだ。
「笑い事ではございませんよ。殿下のおん行く方をお探しするのにどれほど手間取ったことか」
「しかし、よく判ったな」
 と言ったところで、王ははたと思い当たり、歯噛みした。自分としたことが、あまりにも迂闊だったと思う。淑妍の弟は内侍(ネシ)府(プ)の監察(カムチヤル)部長であったことを失念していた。
 元々、この村に住んでいた莉彩のゆく方を突き止めたのも内侍府の力があったからこそだ。内侍府は国王と密接な拘わりを持ち、朝廷ですら及ばないほどの権限を有している。

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