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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第11章 Half MooN

 国王直属といっても過言ではなく、内侍府のどの機関も国王、またはそれに準ずる王室の一員(例えば大妃など)の意を受けて初めて動くものであり、内官と呼ばれる内侍にとって国王の身柄とその意思を守ることこそが第一の任務とされていた。
 崔尚宮からの話で聖泰が我が子であると知った徳宗は莉彩の消息を当たるにつけ、内侍府長を直々に呼び、内々に孫淑容の居所を探し当てるようにと命じたのである。内侍府長の動きは素早く、命令からわずか数日で何と孫淑容の居所が見つかったと報告してきた。内侍府長には監察部を動かさず、内密に―つまり内侍府長直属の配下だけですべてを行うようにと念を押しておいた。
 内侍府長は口の固い、義理堅い男だ、もっとも、お調子者で何でもすぐにぺらぺらと喋ってしまう人間では到底、機密事項の厳しい内侍府では務まらない。ゆえに、内侍府長から情報が漏れることはまずないだろう。
 選りすぐりの精鋭揃いと定評がある監察部をもってしても、国王のゆく方はなかなか掴めなかったようだ。ここを探し当てることはそれほど難しかったのかもしれない。内侍府長が短期間で見つけたことを思えば、監察部長はいささか時間を要した。今の内侍府長は切れ者として知られている。そこはやはり、二人の力量の相違といったところだろう。
 徳宗と淑妍は二人で他愛ない話を交わしながら、ゆっくりと歩いた。村外れの住まいまでやって来た時、徳宗の眼に、家の庭で鶏を追いかける莉彩の姿が見えた。
「旦那(ダー)さま(リー)」
 徳宗の姿を認めた莉彩が顔を輝かせ、大きく手を振る。彼のこよなく愛する妻は愛する良人の隣に小柄で上品な老婦人がいるのを見て、小首を傾げた。

 莉彩の眼の前で、臨淑妍は沈痛な面持ちをして座っていた。淑妍の前には莉彩の淹れたお茶が置いてある。もっとも、今の暮らしでは到底、香草茶など買える経済的な余裕はないが。
「そうでございましたか、よもや王子さま(ワンジヤマーマ)がお亡くなりあそばされているとは思いもかけぬことにございます」
 徳宗からこの半年の様々を聞き終え、淑妍は大きな吐息をついた。
「国王殿下、私が本日、ここに参りました理由は、既にお判りにございましょう」

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