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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第11章 Half MooN

 淑妍は気を取り直したような口調で徳宗に告げる。
「予は帰らぬぞ、淑妍」
 淑妍が今度はわざとらしく大仰な吐息をついて見せた。
「何を幼子のようなことを仰せになられます。もう十分にございましょう?」
「予は莉彩と共に生きることに決めたのだ。たとえそなたが何と申そうが、二度と宮殿には帰らぬ」
 淑妍の前になると、四十六歳の国王がまるで三歳の幼児に見えるときがある。
「護衛部の者たちを村の入り口付近に待機させております。彼等は今日中には国王殿下をお守りして都まで帰ることになっておりますが」
 護衛部もまた内侍府の管轄下にある。
 淑妍は護衛部と共に輿で都からここまで来たに相違ない。内官を引き連れて乗り込んでは、小さな村が大騒動になってしまう。淑妍は徳宗を〝李光徳〟としてこの村からひっそりと去らせようと考えているのだ。
「もう良い、これ以上、そなたと話すことはない。帰ってくれ。乳母、私は生涯の想い人と定めた妻とこの村で生きる。私は病死したことにして、王族の中から適当な人物を次の王に立てて欲しい」
「むろん、淑容さまも殿下とご一緒にお帰りになられますよ」
 淑妍に強い視線を向けられ、莉彩は息を呑んだ。
「私―」
 何も言えなくなり、うつむいてしまう。
 刹那、莉彩は次に起こった事が現実だとは信じられなかった。
 乾いたパンという音が響き、気が付けば、徳宗が右頬を押さえ茫然と淑妍を見ていた。
 淑妍がその場に平伏した。
「国王殿下、どうか私を殺して下さいませ。たとえ、そこにいかなる理由があれども、私は畏れ多くも国王殿下の尊いお身体に手をかけました。これは到底、許されざる行いにございます」
「乳母」
 徳宗は穏やかな声音で言い、淑妍の傍に寄った。そっと手を添えてその身体を抱き起こす。

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