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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第11章 Half MooN

 淑妍は真正面から莉彩を見据えた。
「今度こそ、お心をお決め下さいませ。国王殿下と共にこの時代で生涯をまっとうされるか、この恋はきれいに諦めて現代へ帰るか。道は二つに一つでございます」
 淑妍の生命を賭しての行動は、莉彩の心を打った。
 淑妍は徳宗の乳母として、国王を育てた人として、自らの生命を投げ打ってでも諫言を試みたのだ。この国の未来のためには、自分一人の生命など惜しくはないと覚悟を決め、ここに来たのに違いない。
 何かをただ一つ選び取るためには、生命を棄てるだけの決然とした想いを持たなければならないのだ。
 確かに彼女の言葉はすべてが正しい。
 徳宗が朝鮮国王である以上、彼が莉彩のために玉座を棄てることはできないのだ。ならば、莉彩が選び取るしかない。
 愛する男か。
 両親や友人たちの待つ現代か。
 莉彩は大きく息を吸い込んだ。
「淑妍さま」
 徳宗と淑妍が同時に莉彩を見つめる。
 横顔に注がれる徳宗の視線が痛いほど感じられた。
「私は国王殿下と共にこの時代で生きてゆきます。もう二度と、現代には戻りません」
 徳宗が息を呑む音がした。
 莉彩は言い切ると、自らの気持ちを落ち着かせようと軽く眼を瞑った。

 徳宗と莉彩はその日の中に村を離れた。わずか半年余りの滞在ではあったが、淑妍の指摘したとおり、この村での日々は莉彩にとっては、あらゆる意味で忘れられないものとなった。
 純朴で善良な村人には、都に住む〝李光徳〟の父親が急病で倒れたため、急遽、都に戻らねばならなくなったと告げた。村の人たちは皆、徳宗や莉彩との別れを惜しんでくれた。
 殊に子どもたちが泣いて見送ってくれたのが、莉彩には何より嬉しかった。
 村を発つ前、二人は村外れの丘に登った。
 聖泰が生命を落とすきっかけとなった場所でもある。
 大きな柿の樹の下に小さな石が安置されている。それが、聖泰の墓であった。誰が見ても路傍の石ころと見間違えてしまうほど、粗末なものだ。到底、現国王のただ一人の王子の墓とは思えない。

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