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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第1章 邂逅~めぐりあい~

恋人―、なのかしら。判らない」
 莉彩自身、その日、慎吾に告げるはずだった。しばらく冷却期間を置いて、互いにこれからのことを考えてみないかと言うつもりで、あの場所に行ったのだ。
 でも、予期せぬ事態が起こり、莉彩はこうして時を越えて、はるか昔の朝鮮に来てしまった―。
 今、眼前の男に慎吾が恋人だと胸を張って言えたなら、莉彩はこんなにも悩む必要はなかったろう。
 思い悩む莉彩を見る男の瞳は複雑そうだった。もとより、うつむいたままの莉彩に男の表情は全く見えなかったのだが。
「そなたは、やはり、自分が住んでいた時代に戻りたいのであろうな」
 その言葉に、ひとたびは止まっていた涙が再び溢れ出す。
「帰りたい。帰りたいに決まってるじゃない。だって、ここにいる人は私の全然知らない人ばかりなのよ? 考え方も服装も、生活様式、習慣もすべてが違うんだもの。それに、日本じゃなくて違う国だし」
 何故、タイムトリップするにしても、日本ではなく、朝鮮だったのだろう。わざわざここに自分が来たのには何か理由が―天の意思が動いているのだろうか。
 不思議なことはもう一つあった。
 莉彩は、そのことを男に話した。
 この時代で頼れる人は今のところ、この男しかいない。生命を助けて貰ったし、何より悪い人ではなさそうだ。今はこの男には話せることは話しておいた方が良いと思ったのだ。
 それは、言葉の問題だ。この時代に飛ばされてきたその瞬間から、莉彩は男の話す言葉だけでなく、ここの人々が話す内容がすべて理解できた。
 莉彩の父は韓国語が堪能だが、莉彩自身はてんで駄目だ。それなのに、まるで生まれながらの韓国人のようにハングルを自在に操ることができる。それは時間旅行者(タイムトラベラー)の莉彩には助かったけれど、これもまた不思議といえば不思議な現象の一つであった。
「確かに不思議なこともあるものだ」
 男は素直に頷いた。
 莉彩がいちばん嬉しかったのは、男が莉彩の話を茶化したりせず最後まできちんと耳を傾けてくれたことだった。

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