
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第2章 一人だけの結婚式
今、お茶を淹れますね」
この香草茶は臨家が特別に領地内にある産地から取り寄せているお茶で、淹れ方にはコツが要る。淑妍に教えられ、莉彩はすぐに淹れ方を憶えた。
「お伺いしても良いでしょうか」
莉彩の淹れた香草茶を美味そうに飲む淑妍に、莉彩は問うた。
「何なりと、私のお応えできることならば歓んで」
淑妍は莉彩を気に入ってくれたようで、まるで実の娘のように可愛がった。
「淑妍さまは、あの方から臨尚宮と呼ばれていらっしゃいますが、尚宮というのは後宮で働く偉い女官のことじゃないですか?」
いつしか莉彩もあの男を〝あの方〟と呼ぶようになっていた。名前を知らないのだから、他に呼びようがない。
韓流ドラマ好きの母親の影響もあってか、その程度の知識なら持っている。
「ええ、そうですよ」
淑妍が微笑んで頷く。
「じゃあ、淑妍さまは、昔は宮殿にお勤めしてらしたんですね」
自分の予測が的中し、莉彩は嬉しくなった。
後宮で働く女性―女官は皆、上は尚宮から下は下働きの下女まで国王のもので、結婚も叶わず一度入宮したら死ぬまで暇を取ることはできない。
後宮にはあまたの女性がひしめいているけれど、その中で国王の眼に止まり、お褥に侍ることができるのは、ほんのひと握りの幸運な女人だけ、その他大勢は顔すらろくに見たこともない王に操を立てて一生を無為に過ごさねばならない。
それはつまり、後宮の女なら誰もが王の所有物であるという建て前があるからに他ならない。そのため、女官は〝人知れず咲いて散る花〟と謳われ、ひっそりと花開き、花の盛りを誰にも愛でられることない憐れな宿命だといわれていた。
母に誘われて何度か見たドラマで、後宮の女官がたった一人で婚礼を挙げているのを見て不思議に思ったことがある。しかし、その理由は直に判った。
国王の女である女官は、生涯誰にも嫁がず、王をただ一人の良人として貞節を守りながら過ごす。ゆえに、後宮の女官が上げる婚礼というのは新郎不在で、花嫁ただ一人が良人たる王に生涯の貞節を誓う、いわば誓いの儀式なのだ。
この香草茶は臨家が特別に領地内にある産地から取り寄せているお茶で、淹れ方にはコツが要る。淑妍に教えられ、莉彩はすぐに淹れ方を憶えた。
「お伺いしても良いでしょうか」
莉彩の淹れた香草茶を美味そうに飲む淑妍に、莉彩は問うた。
「何なりと、私のお応えできることならば歓んで」
淑妍は莉彩を気に入ってくれたようで、まるで実の娘のように可愛がった。
「淑妍さまは、あの方から臨尚宮と呼ばれていらっしゃいますが、尚宮というのは後宮で働く偉い女官のことじゃないですか?」
いつしか莉彩もあの男を〝あの方〟と呼ぶようになっていた。名前を知らないのだから、他に呼びようがない。
韓流ドラマ好きの母親の影響もあってか、その程度の知識なら持っている。
「ええ、そうですよ」
淑妍が微笑んで頷く。
「じゃあ、淑妍さまは、昔は宮殿にお勤めしてらしたんですね」
自分の予測が的中し、莉彩は嬉しくなった。
後宮で働く女性―女官は皆、上は尚宮から下は下働きの下女まで国王のもので、結婚も叶わず一度入宮したら死ぬまで暇を取ることはできない。
後宮にはあまたの女性がひしめいているけれど、その中で国王の眼に止まり、お褥に侍ることができるのは、ほんのひと握りの幸運な女人だけ、その他大勢は顔すらろくに見たこともない王に操を立てて一生を無為に過ごさねばならない。
それはつまり、後宮の女なら誰もが王の所有物であるという建て前があるからに他ならない。そのため、女官は〝人知れず咲いて散る花〟と謳われ、ひっそりと花開き、花の盛りを誰にも愛でられることない憐れな宿命だといわれていた。
母に誘われて何度か見たドラマで、後宮の女官がたった一人で婚礼を挙げているのを見て不思議に思ったことがある。しかし、その理由は直に判った。
国王の女である女官は、生涯誰にも嫁がず、王をただ一人の良人として貞節を守りながら過ごす。ゆえに、後宮の女官が上げる婚礼というのは新郎不在で、花嫁ただ一人が良人たる王に生涯の貞節を誓う、いわば誓いの儀式なのだ。
