
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第2章 一人だけの結婚式
華やかなはずの婚礼に何とも悲壮な雰囲気が漂っているような気がしたのは、そのせいだったのだ。
「何故、宮殿を下がられたのですか」
この問いにも、淑妍は微笑んで応えた。
「自分の役目が既に終わり、私が宮殿にいる必要がなくなったと自身で判断したからです」
「そう―なのですか」
莉彩はしばらく考えに耽った。
しばらくして、弾かれたように面を上げる。
「淑妍さま、私にどこか働き先を紹介して貰えませんか」
「―」
流石に淑妍は声がなかった。
「折角の機会なので、色々な経験をしてみたいのです。それに、いつまでもこちらのお屋敷にご厄介になっているわけにもゆきませんし」
あの男が淑妍にどこまで話しているのかは判らないが、大方、淑妍はすべての事情を察しているに相違ない。
実のところ、莉彩はいつまでもこの屋敷にはいられないと思っていた。淑妍もその弟の臨内官も優しい人たちだけれど、臨内官の奥方はなかなか気性が烈しい女性だ。莉彩は一、二度しか逢ったことはないが、初めは良人の臨内官が屋敷内に囲った側妾だと勘違いされ、物凄い眼で睨まれた。
夫婦とはいえ、良人とは交わりのできぬ宿命だ。むろん、夫婦は閨の関係だけではない。長の年月を共に寄り添い合って歩みながら、信頼関係と絆を築いてゆけば良いだろう。
が、覚悟して嫁ぐとはいっても、健康な女性であれば辛いこともあるはずだ。その長年、溜まりに溜まった鬱憤が夫人の気性を余計に撓め歪ませているのかもしれない。考えてみれば、宦官の妻というのも哀しい立場ではあった。
今でも夫人が自分の存在を疑いの視線で見ていることは知っている。淑妍や臨内官はともかく、あの女性は莉彩に一日も早く、出て行って欲しいと願っていることだろう。
「夫人(プイン)のことですね。あの人も悪い方ではないのですが、やはり内官の妻というのも辛いものがあるのでしょう。私と同様、夫人も子を生み育てるという女としての愉しみを味わえなかったのですから」
淑妍はどこか淋しげに微笑むと、頷いた。
「でも、淑妍さまは、あの方の乳母だったとお聞きしましたが」
「何故、宮殿を下がられたのですか」
この問いにも、淑妍は微笑んで応えた。
「自分の役目が既に終わり、私が宮殿にいる必要がなくなったと自身で判断したからです」
「そう―なのですか」
莉彩はしばらく考えに耽った。
しばらくして、弾かれたように面を上げる。
「淑妍さま、私にどこか働き先を紹介して貰えませんか」
「―」
流石に淑妍は声がなかった。
「折角の機会なので、色々な経験をしてみたいのです。それに、いつまでもこちらのお屋敷にご厄介になっているわけにもゆきませんし」
あの男が淑妍にどこまで話しているのかは判らないが、大方、淑妍はすべての事情を察しているに相違ない。
実のところ、莉彩はいつまでもこの屋敷にはいられないと思っていた。淑妍もその弟の臨内官も優しい人たちだけれど、臨内官の奥方はなかなか気性が烈しい女性だ。莉彩は一、二度しか逢ったことはないが、初めは良人の臨内官が屋敷内に囲った側妾だと勘違いされ、物凄い眼で睨まれた。
夫婦とはいえ、良人とは交わりのできぬ宿命だ。むろん、夫婦は閨の関係だけではない。長の年月を共に寄り添い合って歩みながら、信頼関係と絆を築いてゆけば良いだろう。
が、覚悟して嫁ぐとはいっても、健康な女性であれば辛いこともあるはずだ。その長年、溜まりに溜まった鬱憤が夫人の気性を余計に撓め歪ませているのかもしれない。考えてみれば、宦官の妻というのも哀しい立場ではあった。
今でも夫人が自分の存在を疑いの視線で見ていることは知っている。淑妍や臨内官はともかく、あの女性は莉彩に一日も早く、出て行って欲しいと願っていることだろう。
「夫人(プイン)のことですね。あの人も悪い方ではないのですが、やはり内官の妻というのも辛いものがあるのでしょう。私と同様、夫人も子を生み育てるという女としての愉しみを味わえなかったのですから」
淑妍はどこか淋しげに微笑むと、頷いた。
「でも、淑妍さまは、あの方の乳母だったとお聞きしましたが」
