
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第2章 一人だけの結婚式
「あの方は、日々、お心淋しく過ごしておられます。莉彩は利発で物憶えも良い。それに、心根も優しい娘ゆえ、こうして頼んでいます。どうか宮殿に上がったら、あの方のお力になって差し上げて下さい。この香草茶は実は、あの方がお好きなものなのですよ。宮殿にいる時分は、よくこれをご所望になり、私が淹れて差し上げました」
「淑妍さま、あの方は王族のお一人でいらっしゃるのですね? 身分の高いお方だとは思っていましたが、まさか宮殿にお住まいの王族だとは考えてもみませんでした」
莉彩が無邪気な感想を述べるのに、淑妍は、ただ静かに笑っているだけだ。
「判りました。いつまでいられるかは判りませんが、精一杯、淑妍さまのご期待に添うように努力します」
莉彩は力強く頷いた。
「頼もしい言葉を聞けて、私も嬉しく思います」
淑妍が微笑む。眼の前の卓には器に美しく盛られた揚げ菓子があった。淑妍はそれを一つつまむと、莉彩に差し出す。
「さ、遠慮しないで、お食べなさい。先刻から食べたいのに、私に遠慮して我慢していたのでしょう」
「へへ、ばれちゃいましたか」
莉彩は肩をすくめ、ペコっとお辞儀をして揚げ菓子を受け取る。
現代にいるときも、この時代に来ても、甘いものには眼がない莉彩であった。
いかにも幸せそうに菓子を頬張る莉彩は、まだ十六歳の少女らしく、あどけない。
そんな莉彩を淑妍は婉然と微笑んで眺めていた。よもや、淑妍の中にさる思惑が潜んでいようとは、この時、莉彩は知る由もなかった。
その数日後、莉彩は慌ただしく臨内官の屋敷から宮殿に移った。既にこの時代に来てから、ひと月余りが経っていた。
入宮後まず行われたのは、何と婚礼であった。この時代、韓国では婚礼のことを嘉礼(カレ)と呼ぶ。
むろん、後宮女官の掟にのっとり、花婿のいない、花嫁だけの結婚式だ。テレビで見たときも、何とも侘びしいものだと思ったものだけれど、現実に自分が直面してみると、侘びしいどころではなかった。
「淑妍さま、あの方は王族のお一人でいらっしゃるのですね? 身分の高いお方だとは思っていましたが、まさか宮殿にお住まいの王族だとは考えてもみませんでした」
莉彩が無邪気な感想を述べるのに、淑妍は、ただ静かに笑っているだけだ。
「判りました。いつまでいられるかは判りませんが、精一杯、淑妍さまのご期待に添うように努力します」
莉彩は力強く頷いた。
「頼もしい言葉を聞けて、私も嬉しく思います」
淑妍が微笑む。眼の前の卓には器に美しく盛られた揚げ菓子があった。淑妍はそれを一つつまむと、莉彩に差し出す。
「さ、遠慮しないで、お食べなさい。先刻から食べたいのに、私に遠慮して我慢していたのでしょう」
「へへ、ばれちゃいましたか」
莉彩は肩をすくめ、ペコっとお辞儀をして揚げ菓子を受け取る。
現代にいるときも、この時代に来ても、甘いものには眼がない莉彩であった。
いかにも幸せそうに菓子を頬張る莉彩は、まだ十六歳の少女らしく、あどけない。
そんな莉彩を淑妍は婉然と微笑んで眺めていた。よもや、淑妍の中にさる思惑が潜んでいようとは、この時、莉彩は知る由もなかった。
その数日後、莉彩は慌ただしく臨内官の屋敷から宮殿に移った。既にこの時代に来てから、ひと月余りが経っていた。
入宮後まず行われたのは、何と婚礼であった。この時代、韓国では婚礼のことを嘉礼(カレ)と呼ぶ。
むろん、後宮女官の掟にのっとり、花婿のいない、花嫁だけの結婚式だ。テレビで見たときも、何とも侘びしいものだと思ったものだけれど、現実に自分が直面してみると、侘びしいどころではなかった。
