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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第2章 一人だけの結婚式

 社会を変えるような大層なことはできないけれど、弱い立場のお年寄りを助け、少しでも老後を快適に過ごせるようにサポートすることなら、自分にもできるかもしれない。
 慎吾とのことも、やはりこのままではいけないと思うようになった。相手の優しさや寛容さに付け込み、その気があるような素振りを見せるのは卑怯だ。こちらも現代に戻れたら、自分の想いをきちんと誠意をもって告げ、二人の関係を見直してみる必要があるだろう。
 莉彩が折しも固めの杯を口にしようとしたその時、はるか遠方を賑々しい行列が通りかかった。朱塗りの綺羅綺羅しい輿に乗っているのは、まさに国王その人である。
 輿の前後をあまたの内官や尚宮、女官が付き添い、行列は静々と進んでゆく。
 ふいに、その行列が止まった。
 緊張しっ放しで儀式に臨んでいる莉彩には、そんな一切は眼に入ってはいない。
 嘉礼を行っている様子を遠くから見かけ、王が脚を止めたのだ。
「あの者は誰だ?」
 傍らに畏まって控える内官に訊ねた王に、恭しい返事が返ってきた。
「本日、嘉礼を行っておりますのは臨女官にございます」
「臨女官とは―」
 物問いたげな王に向かい、今度は王付きの尚宮が丁重に応えた。
「はい、四日前に臨尚宮の紹介で入宮致しました臨莉彩(イムイチェ)にございます」
「おう、そうであったか。そう申せば、あの者が乳母の養女として入宮としたと耳にしておった」
「国王殿下(チュサンチョナー)は臨女官をご存じでいらっしゃいましたか?」
 尚宮が愕いた表情をするのに、若い王は笑った。
「まあ、な」
 嬉しげに嘉礼を見つめる王の横顔を、内官と尚宮が意味ありげな顔で見つめ合う。
 それは、〝殿下のご執心なさる女官が新たに現れた〟という無言の事実確認であった。
「輿をもっと近くまで移動させよ」
 鶴のひと声で、王の乗った輿はまた静々と進んだ。お付きの者たちもまたぞろぞろと付き従う。物陰に輿を止めさせ、王は愉快そうな表情で厳粛に執り行われる儀式を見物している。
 と、突然、王が輿を降りようして、傍らの内官は狼狽えた。

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