
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第2章 一人だけの結婚式
殿下、どうなさるおつもりにございますか」
「臨女官の許にゆく。丁度、固めの杯を呑んでいるところではないか、花婿のおらぬ婚礼は淋しかろう。予が参って、その役を果たそう」
事もなげに言う王を、尚宮が大慌てで止めた。
「なりません、殿下。後宮の女官は皆、おしなべて殿下のものであるという大前提に嘉礼は行われます。あまたの女官は皆、誰もが殿下のご寵愛を頂くことを夢見ておるのでございます。女官の嘉礼は新婦一人で行うのが通例、それを臨女官にのみ殿下がご臨席あそばされては、他の者たちに示しがつきませぬ」
尚宮の諫めはもっともであった。私情に溺れて、公私混同するほど愚かな王ではない。
王は不満げに押し黙ったが、その表情には明らかに落胆が滲んでいた。
「後宮に仕える女官が予のものだと申すのなら、予が女官の嘉礼に新郎として出席しても一向に構わぬと思うのだがな」
それでもまだ小声で呟く王を、年配の尚宮がキッと睨む。
王はまるで悪戯を見つかった幼児のように肩をすくめ、それきり口を噤んだ。
霜月下旬とはいえ、その日、日中は動けばうっすらと汗ばむほどの陽気だった。
年若い王は、盛装した臨女官を眼を細めて眺めている。その視線が何となく熱っぽく、眩しげに見えたのは、満更、陽光の眩しさだけではなかったろう。
その後も、嘉礼が終わるまで、王はその場所から動かなかった。
その二日後。
莉彩は直属の上司である崔(チェ)尚宮から言いつけられた洗濯を済ませ、更にその後すぐに生果房(王や王妃たちに出す食材を賄う部署)まで崔尚宮の言づてを届けにいった。それは、今夜の王にお出しする御膳のデザートの変更であった。栗を出す予定だったのを、急遽、干し杏子に代えるというものだ。
崔尚宮は臨尚宮とも面識があるといい、年の頃は四十前後のもの柔らかな女性である。偉い女官となると、皆、怖くて威張っているおばさん(?)=お局さまを想像していたのだけれど、崔尚宮はどちらかといえば臨尚宮と似たようなタイプだ。
もっとも、失敗したときには、容赦なく手厳しく
「臨女官の許にゆく。丁度、固めの杯を呑んでいるところではないか、花婿のおらぬ婚礼は淋しかろう。予が参って、その役を果たそう」
事もなげに言う王を、尚宮が大慌てで止めた。
「なりません、殿下。後宮の女官は皆、おしなべて殿下のものであるという大前提に嘉礼は行われます。あまたの女官は皆、誰もが殿下のご寵愛を頂くことを夢見ておるのでございます。女官の嘉礼は新婦一人で行うのが通例、それを臨女官にのみ殿下がご臨席あそばされては、他の者たちに示しがつきませぬ」
尚宮の諫めはもっともであった。私情に溺れて、公私混同するほど愚かな王ではない。
王は不満げに押し黙ったが、その表情には明らかに落胆が滲んでいた。
「後宮に仕える女官が予のものだと申すのなら、予が女官の嘉礼に新郎として出席しても一向に構わぬと思うのだがな」
それでもまだ小声で呟く王を、年配の尚宮がキッと睨む。
王はまるで悪戯を見つかった幼児のように肩をすくめ、それきり口を噤んだ。
霜月下旬とはいえ、その日、日中は動けばうっすらと汗ばむほどの陽気だった。
年若い王は、盛装した臨女官を眼を細めて眺めている。その視線が何となく熱っぽく、眩しげに見えたのは、満更、陽光の眩しさだけではなかったろう。
その後も、嘉礼が終わるまで、王はその場所から動かなかった。
その二日後。
莉彩は直属の上司である崔(チェ)尚宮から言いつけられた洗濯を済ませ、更にその後すぐに生果房(王や王妃たちに出す食材を賄う部署)まで崔尚宮の言づてを届けにいった。それは、今夜の王にお出しする御膳のデザートの変更であった。栗を出す予定だったのを、急遽、干し杏子に代えるというものだ。
崔尚宮は臨尚宮とも面識があるといい、年の頃は四十前後のもの柔らかな女性である。偉い女官となると、皆、怖くて威張っているおばさん(?)=お局さまを想像していたのだけれど、崔尚宮はどちらかといえば臨尚宮と似たようなタイプだ。
もっとも、失敗したときには、容赦なく手厳しく
