
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第2章 一人だけの結婚式
―らしいというのは、莉彩はまだ王も王の后妃にもお目通りしたことがないからだ。それに、現王は三十歳だというが、目下のところ、正式な后妃は一人としていない淋しい身の上だという。お手つきの女官はいないこともないらしいが、夜のお相手を務めたのはせいぜいが二、三度で、そんな女たちからは〝主上(サンガンマーマ)は薄情なお方〟と恨まれているそうだ。
かといって特に王が好色というわけでもなく、今の後宮は中殿(王妃・チュンジョン)や妃嬪(側室)が王の寵愛を競い合うこともなく、至って波風立たぬ平穏だ。ただ、唯一の嵐の目は、王の義母に当たる大妃(テービ)の存在である。
金(キム)大妃は先王の中殿、つまり正室だ。現在、六十近い高齢だが、病知らずでかくしゃくとし、今も大妃殿で隠然たる勢力を誇っている。
王は昔から、この大妃と犬猿の仲であった。現王徳宗(ドクジョン)は先王の側室の一人である淑儀(スウギ)から誕生、身分の低い側室からの出生である王を大妃は厭い、長らく世子(セジャ)とすることに異を唱えていた。しかし、先王はあまり子宝には恵まれず、中殿金氏はまだ世子嬪(王太子妃・セジャビン)時代に一女をあげたものの、生後まもなく早世、その後は懐妊することはなかった。
王子四人、翁主(王女)三人の中、成人するに至ったのは何と王位を継いだ徳宗のみであった。徳宗の生母は徳宗がまだ六歳の砌に若くして亡くなっている。生きていれば、王の実母としてさぞかし時めいたであろうが、時に宿命とは弱き者には苛酷なものである。
淑儀は我が子が王座に就くどころか、世子に冊立されるその晴れの日すら見ることなく、王妃にいびられながら失意の中にこの世を去った。まだ二十四歳の若さだったという。
とにかく、このなさぬ仲の母子は仲が悪かった。王が何かしようとすれば、必ず大妃から横やりが入る。意地になった王は余計に己れの意見を通そうと躍起になる。―といった案配で、この果てしない親子喧嘩は延々と続いている。
莉彩は水果房に崔尚宮の伝言を確かに伝え、足どりも軽く来た道を引き返した。
その途中、向こうからぞろぞろと歩いてくる一団に遭遇する。
お付きの内官が大きな緋色の天蓋を高々と掲げているところを見ると、どうやら国王殿下のおなりらしい。
かといって特に王が好色というわけでもなく、今の後宮は中殿(王妃・チュンジョン)や妃嬪(側室)が王の寵愛を競い合うこともなく、至って波風立たぬ平穏だ。ただ、唯一の嵐の目は、王の義母に当たる大妃(テービ)の存在である。
金(キム)大妃は先王の中殿、つまり正室だ。現在、六十近い高齢だが、病知らずでかくしゃくとし、今も大妃殿で隠然たる勢力を誇っている。
王は昔から、この大妃と犬猿の仲であった。現王徳宗(ドクジョン)は先王の側室の一人である淑儀(スウギ)から誕生、身分の低い側室からの出生である王を大妃は厭い、長らく世子(セジャ)とすることに異を唱えていた。しかし、先王はあまり子宝には恵まれず、中殿金氏はまだ世子嬪(王太子妃・セジャビン)時代に一女をあげたものの、生後まもなく早世、その後は懐妊することはなかった。
王子四人、翁主(王女)三人の中、成人するに至ったのは何と王位を継いだ徳宗のみであった。徳宗の生母は徳宗がまだ六歳の砌に若くして亡くなっている。生きていれば、王の実母としてさぞかし時めいたであろうが、時に宿命とは弱き者には苛酷なものである。
淑儀は我が子が王座に就くどころか、世子に冊立されるその晴れの日すら見ることなく、王妃にいびられながら失意の中にこの世を去った。まだ二十四歳の若さだったという。
とにかく、このなさぬ仲の母子は仲が悪かった。王が何かしようとすれば、必ず大妃から横やりが入る。意地になった王は余計に己れの意見を通そうと躍起になる。―といった案配で、この果てしない親子喧嘩は延々と続いている。
莉彩は水果房に崔尚宮の伝言を確かに伝え、足どりも軽く来た道を引き返した。
その途中、向こうからぞろぞろと歩いてくる一団に遭遇する。
お付きの内官が大きな緋色の天蓋を高々と掲げているところを見ると、どうやら国王殿下のおなりらしい。
