
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第2章 一人だけの結婚式
莉彩は我が身に起こったことが到底信じられなかった。
これは夢―? 覚めるのが勿体ないと思ってしまうほどのステキな夢なの?
「いいえ、泣いてなどおりませぬ」
そう言いながらも、声が震えるのはどうしようもない。
王がかすかに含み笑いを洩らした。
懐からそっと手巾を取り出し、莉彩の涙をぬぐってやった。
「そなたが泣くと、予はどうして良いか判らなくなってしまうのだ。だから、もう泣くのは止めろ」
初めてこの世界に来たそのときから、ずっと優しくしてくれた男(ひと)だった。でも、いまだにこの男の面影が胸の内から消えないのは、多分、生命の恩人だからというだけじゃない。
莉彩は心で思った。
―わたしは、このひとのことがきっとすきなんだ。
〝好き〟という短いフレーズを口の中で転がしてみる。すると、それは一瞬の中にふわふわとした綿菓子のように溶けてひろがる。
切ないけれど、幸せな気持ちだった。
慎吾を想う時、こんな気持ちになったことは一度もなかったのに。
この瞬間、莉彩は、はっきりと認識した。
慎吾への気持ちは、恋ではなかったことに。そして、恐らく、この男とめぐり逢ったときから、真実の恋が既に始まっていたことに。
だが。
この想いは永遠に実ることはないだろう。
まず第一に、莉彩はこの時代の人間ではない。本来であれば、この世界に属するべき人間ではなく、いてはならない人間なのだ。
いずれ現代に帰ることになる莉彩に、この時代に生きる男を好きになる資格はない。
次に、莉彩が生まれて十六年で初めて恋に落ちたひとは、国王殿下だった―。仮に莉彩がこの時代、はるかな過去で生きてゆく決意をしたとしても、この男と自分が結ばれる可能性は皆無に等しい。
ありきたりな言葉、理由ではあっても、二人の間に立ちはだかる厚い壁は〝身分違い〟という名の障害であった。
泣くまいと思えば思うほど、涙は堰を切ったように溢れ出してくる。
「宮廷での暮らしは、それほどに辛いのか」
王の声もまた辛そうだ。
莉彩は泣きながらも、小さく首を振った。
これは夢―? 覚めるのが勿体ないと思ってしまうほどのステキな夢なの?
「いいえ、泣いてなどおりませぬ」
そう言いながらも、声が震えるのはどうしようもない。
王がかすかに含み笑いを洩らした。
懐からそっと手巾を取り出し、莉彩の涙をぬぐってやった。
「そなたが泣くと、予はどうして良いか判らなくなってしまうのだ。だから、もう泣くのは止めろ」
初めてこの世界に来たそのときから、ずっと優しくしてくれた男(ひと)だった。でも、いまだにこの男の面影が胸の内から消えないのは、多分、生命の恩人だからというだけじゃない。
莉彩は心で思った。
―わたしは、このひとのことがきっとすきなんだ。
〝好き〟という短いフレーズを口の中で転がしてみる。すると、それは一瞬の中にふわふわとした綿菓子のように溶けてひろがる。
切ないけれど、幸せな気持ちだった。
慎吾を想う時、こんな気持ちになったことは一度もなかったのに。
この瞬間、莉彩は、はっきりと認識した。
慎吾への気持ちは、恋ではなかったことに。そして、恐らく、この男とめぐり逢ったときから、真実の恋が既に始まっていたことに。
だが。
この想いは永遠に実ることはないだろう。
まず第一に、莉彩はこの時代の人間ではない。本来であれば、この世界に属するべき人間ではなく、いてはならない人間なのだ。
いずれ現代に帰ることになる莉彩に、この時代に生きる男を好きになる資格はない。
次に、莉彩が生まれて十六年で初めて恋に落ちたひとは、国王殿下だった―。仮に莉彩がこの時代、はるかな過去で生きてゆく決意をしたとしても、この男と自分が結ばれる可能性は皆無に等しい。
ありきたりな言葉、理由ではあっても、二人の間に立ちはだかる厚い壁は〝身分違い〟という名の障害であった。
泣くまいと思えば思うほど、涙は堰を切ったように溢れ出してくる。
「宮廷での暮らしは、それほどに辛いのか」
王の声もまた辛そうだ。
莉彩は泣きながらも、小さく首を振った。
