
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第3章 接近~近づいてゆく心~
「昔語りをするとしよう」
王は莉彩の反応には頓着することなく、言葉どおり子どもに昔話を読み聞かせるように淡々と話し始めた。
「私には、かつて、その人のためならば死をも厭わぬというほど愛した女人がいた。莉彩、十年前といえば、そなたは幾つだ?」
予期せぬ問いに、莉彩は戸惑いながらも応えた。
「六歳にございます」
王がほろ苦く笑う。
「そうか、六歳か。まだ、ほんの子どもだったのだな。その頃、私は一人の女を殺した。それもただの女ではない、何ものにも代えがたいと思うほど、心から愛し必要としていた女性だ」
「まさか、殿下が最初に仰った最愛の方―?」
思わず呟いてしまい、莉彩は失言であったと口を押さえる。
王はゆっくりと頷いた。
「そうだ、私が自ら毒を与え、死に追いやったのは、私が生涯の想い人と定めた妻だった―。私と彼女は幼い頃に知り合い、そのまま成長して恋に落ち、結ばれた。私が彼女を側室の一人として迎えるまでには様々な経緯(いきさつ)があったが、私たちの絆は固く、私は彼女との幼い日の約束を守り、彼女を妻にすることができた。それなのに、私は彼女を最後まで信じられなかった」
王は切なそうな表情で首を振った。
当時、王は二十歳になったばかり、相手の娘は十八歳だった。名は伊賢花(ユンキョンファ)という。
父は重臣を務めた両班の家柄で、名家の娘として生まれ育った賢花は野辺にひっそりと花開く白い花のようだった。儚げな美貌に反して意思は強く、たとえ相手が王であれ、己れの意見は堂々と述べる芯の強さがあった。
王はそんな真っすぐで伸びやかな賢花に惹かれたのだ。
賢花にとっては姑になる金(キム)大妃は元々、彼女を気に入らなかった。というのも、金大妃が推した娘を王が中殿に迎えたものの、側室の賢花にばかり寵愛が傾き、王が中殿を見向きもしなかったからだ。王が夜を共に過ごすのはいつも伊氏であり、王は内殿(中殿の宮)に脚を向けようともしなかった。
「今から考えれば、若気の至りで、中殿にも酷い仕打ちをしたと思う」
王はやるせなさそうに呟く。
王は莉彩の反応には頓着することなく、言葉どおり子どもに昔話を読み聞かせるように淡々と話し始めた。
「私には、かつて、その人のためならば死をも厭わぬというほど愛した女人がいた。莉彩、十年前といえば、そなたは幾つだ?」
予期せぬ問いに、莉彩は戸惑いながらも応えた。
「六歳にございます」
王がほろ苦く笑う。
「そうか、六歳か。まだ、ほんの子どもだったのだな。その頃、私は一人の女を殺した。それもただの女ではない、何ものにも代えがたいと思うほど、心から愛し必要としていた女性だ」
「まさか、殿下が最初に仰った最愛の方―?」
思わず呟いてしまい、莉彩は失言であったと口を押さえる。
王はゆっくりと頷いた。
「そうだ、私が自ら毒を与え、死に追いやったのは、私が生涯の想い人と定めた妻だった―。私と彼女は幼い頃に知り合い、そのまま成長して恋に落ち、結ばれた。私が彼女を側室の一人として迎えるまでには様々な経緯(いきさつ)があったが、私たちの絆は固く、私は彼女との幼い日の約束を守り、彼女を妻にすることができた。それなのに、私は彼女を最後まで信じられなかった」
王は切なそうな表情で首を振った。
当時、王は二十歳になったばかり、相手の娘は十八歳だった。名は伊賢花(ユンキョンファ)という。
父は重臣を務めた両班の家柄で、名家の娘として生まれ育った賢花は野辺にひっそりと花開く白い花のようだった。儚げな美貌に反して意思は強く、たとえ相手が王であれ、己れの意見は堂々と述べる芯の強さがあった。
王はそんな真っすぐで伸びやかな賢花に惹かれたのだ。
賢花にとっては姑になる金(キム)大妃は元々、彼女を気に入らなかった。というのも、金大妃が推した娘を王が中殿に迎えたものの、側室の賢花にばかり寵愛が傾き、王が中殿を見向きもしなかったからだ。王が夜を共に過ごすのはいつも伊氏であり、王は内殿(中殿の宮)に脚を向けようともしなかった。
「今から考えれば、若気の至りで、中殿にも酷い仕打ちをしたと思う」
王はやるせなさそうに呟く。
