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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第3章 接近~近づいてゆく心~

「その頃のことを何も知らない私には、何をどう申し上げることもできません。ただ、殿下、これだけは申し上げたいのです。殿下はもう十分、お苦しみになられました。十年という月日は口にするのは容易いことですが、実際には途方もない長さです。その間、殿下は常に賢花さまと中殿さまのことをお想いになって過ごしてこられたのではありませんか? ご自分を責め続け、悪いのは殿下お一人だとお苦しみに。殿下、もし、私が賢花さまなら、殿下がそのようにいつまでもご自分をお責めになるのを見るのは辛いでしょう」
「莉彩」
 呟いた王に、莉彩は手を付いた。
「賤しい身も顧みず、身の程知らずなことを申し上げました」
「莉彩、人とは愚かでもあるし、前向きな生きものでもあるのだな」
 しばらくして聞こえてきた王の声は存外に明るかった。
 ホッと安堵の溜息をついた莉彩の耳を、王の声が打つ。
「そなたに出逢って、私はそのことをつくづく思い知らされた。もう二度と女を愛することはないと、愛せないと思っていた私に、そなたは希望の光をくれた。莉彩、私はそなたを―」
 言いかけた王の言葉を莉彩が即座に遮った。
「それ以上、仰せになってはなりませぬ!」
 王が息を呑む音が伝わってきた。
「何故だ? 私の語った過去は、やはり、そなたにとっては呪わしいものか? 愛する女を信じられぬような男はまた、信頼にも足らぬと?」
「いいえ、そのようなことはございませぬ。殿下は十年もの間、十分に苦しまれました。賢花さまの死はけして殿下が招いたものではございません」
 伊氏を殺したのは金大妃だと言いたいのは山々だけれど、ここでそれを口にすることはできない。
「では、何故!?」
 振り絞るように叫ぶ王に、莉彩は哀しげに微笑む。
「殿下、私がタイムトラベラーであることをお忘れではございませんか?」
「たいむ・とらべらー」
 王が茫然と呟く。

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