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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第3章 接近~近づいてゆく心~

 大妃はそれでもなお鞭を振り上げようとする。
「母上、どうかお止め下さい」
 懇願してもきかない大妃の前に、王が両手をひろげて立ちはだかった。
「お止め下さい」
 莉彩を庇うように前を塞いだ王の背後で、ユラリと莉彩の身体が傾ぐ。王が咄嗟に脇から手を差しのべて莉彩を抱き止めた。
「莉彩ッ、莉彩ッ」
 王は気が狂ったように莉彩の身体を揺さぶる。その取り乱し様に、大妃は呆れたように肩を竦め、眉をひそめた。
「何と嘆かわしい。一国の王たるお方が身分の低い女官にそこまで溺れておしまいになるとは。殿下、皆の前で見苦しいおふるまいはお止めなさいませ」
 王が叫んだ。
「莉彩が何をしたというのですか! 何の罪を犯したといって、このような酷いことをなさるのです」
「殿下、この娘はお側に置くことはなりませぬぞ。全く無教養な上に、粗野なこと極まりない。殿下はこの者に既に言い交わした者がおることをご存じでいらっしゃいましたか?」
 最後の問いには、大妃の面が残酷な歓びに一瞬輝いた。
「存じております。言い交わしておるかどうかまでは知りませんが、交際していた男はいたと当人の口より聞きました」
 事もなげに言う王に、大妃が悔しそうな表情になる。が、すぐに体勢を立て直した。
「それでは、殿下はこの者に既に情人がいるとご存じであられながら、お側にお召しになったのですか? 他の男のものになっている女にお手をお出しになるのは君主としてはあるまじき行いにございましょう」
「莉彩は、その男とは別れるとはっきり申しました。ゆえに、何の問題もございませぬし、私は莉彩の言葉を信じます」
 王は腕の中でぐったりとする莉彩を切なげに見つめた。
「母上はまた、私に怖ろしい罪を犯させようとなさるのですか?」
 王の言葉に、大妃は眉をひそめた。
「それは、いかなることにございしまょうや」
 王は曇りのない眼で大妃を真っすぐに見つめる。

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