
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第4章 約束
【約束】
それから、ふた月が過ぎた。
莉彩が大妃から鞭打たれた傷もすっかり癒えた。今でもうっすらと紅く痕が残っているけれど、痛みは全くない。
あの後、莉彩の脚に受けた傷は化膿し、かなり酷いことになった。王がすぐに宮廷お抱えの尚薬(医師・サンヤク)を呼び、手厚い治療を施したお陰で事なきを得たものの、むち打たれた部分が水ぶくれとなり、火傷をしたような状態になってしまったのだ。
回復には刻を要し、一時は高熱を発して尚薬に難しい表情をさせたほどだった。王はその間、ずっと莉彩の傍に付きっきりだったという。
―というのも、肝心の莉彩は意識を失っていて、その間のことは一切記憶にない。
生死をさまようほどの危地を脱したのは、十日余りも経ってからのことで、意識を取り戻した時、既に王の姿はどこにもなかった。
それからというもの、王は意識的に莉彩を避けているようだ。もっとも、莉彩の居室と王の住まいである大殿はかなり離れているし、莉彩のような下っ端の女官風情が王の尊顔を拝することなど現実には滅多とない。
恐らく、王が莉彩から興味を失ったか、あるいは義母である大妃と争ってまで愛する価値のない女だと諦めたかのいずれかに相違ない。
莉彩には哀しいことではあったが、それはそれで致し方ないともいえた。莉彩は王にも告げたとおり、この時代にいるべき人間ではない。できることなら、王の傍にはいない方が良いのだ。そう思って自分を慰めようとしても、どうしても心にぽっかりと大きな穴が空いたようで、莉彩は夜になると布団を頭からすっぽり被って泣いた。
その年も終わり、新しい年が来た。
そんなある日、莉彩は実に久方ぶりに町に出た。崔尚宮のお遣いで近隣の寺院までお詣りにゆく―いわば代参ではあったが、数ヵ月ぶりに宮殿の外に出るとあって、知らず心は浮き立った。ついでに養家にも寄ってくると良い―と、崔尚宮は臨尚宮への贈物まで持たせてくれた。莉彩としては臨尚宮に逢いたいのはむろんだったけれど、臨家を訪問するということは即ち、あの臨内官夫人にも逢って挨拶するということでもある。それは正直、気が進まない。
それから、ふた月が過ぎた。
莉彩が大妃から鞭打たれた傷もすっかり癒えた。今でもうっすらと紅く痕が残っているけれど、痛みは全くない。
あの後、莉彩の脚に受けた傷は化膿し、かなり酷いことになった。王がすぐに宮廷お抱えの尚薬(医師・サンヤク)を呼び、手厚い治療を施したお陰で事なきを得たものの、むち打たれた部分が水ぶくれとなり、火傷をしたような状態になってしまったのだ。
回復には刻を要し、一時は高熱を発して尚薬に難しい表情をさせたほどだった。王はその間、ずっと莉彩の傍に付きっきりだったという。
―というのも、肝心の莉彩は意識を失っていて、その間のことは一切記憶にない。
生死をさまようほどの危地を脱したのは、十日余りも経ってからのことで、意識を取り戻した時、既に王の姿はどこにもなかった。
それからというもの、王は意識的に莉彩を避けているようだ。もっとも、莉彩の居室と王の住まいである大殿はかなり離れているし、莉彩のような下っ端の女官風情が王の尊顔を拝することなど現実には滅多とない。
恐らく、王が莉彩から興味を失ったか、あるいは義母である大妃と争ってまで愛する価値のない女だと諦めたかのいずれかに相違ない。
莉彩には哀しいことではあったが、それはそれで致し方ないともいえた。莉彩は王にも告げたとおり、この時代にいるべき人間ではない。できることなら、王の傍にはいない方が良いのだ。そう思って自分を慰めようとしても、どうしても心にぽっかりと大きな穴が空いたようで、莉彩は夜になると布団を頭からすっぽり被って泣いた。
その年も終わり、新しい年が来た。
そんなある日、莉彩は実に久方ぶりに町に出た。崔尚宮のお遣いで近隣の寺院までお詣りにゆく―いわば代参ではあったが、数ヵ月ぶりに宮殿の外に出るとあって、知らず心は浮き立った。ついでに養家にも寄ってくると良い―と、崔尚宮は臨尚宮への贈物まで持たせてくれた。莉彩としては臨尚宮に逢いたいのはむろんだったけれど、臨家を訪問するということは即ち、あの臨内官夫人にも逢って挨拶するということでもある。それは正直、気が進まない。
