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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第4章 約束

 上方に掲げるようにして太陽の光にかざすと、花びらの部分にはめ込まれた石(アメジスト)が燦然と輝く。老人は更に簪を引っ繰り返したり、また元に戻したりと念入りに眺めた。
「お爺さんは、観相もなさると聞きました。あなたは、私が時を越えてこの時代に来たことも知っているのでしょう? だから、あの時、あんなことを私に言った―」
―はるかな時を越えておいでになったお優しいお嬢さま。
「あなたは、この簪がこの時代と私のいた時代を繋ぐ大切なものだと言いました。それはつまり、この簪を使えば、私は元の時代に戻れるということなのではないかしら」
 老人は黙って莉彩の言葉を聞いていたが、やがて、おもむろに顔を上げた。
「お嬢さん。儂は、お前さまにもう一つ、大切なことを言うたはずですぞ」
―今度、めぐり逢われるお方の手を二度とお放しなさいますな。折角、天が再び引き合わせて下されるのですから、そのご縁を大切になさって下さい。
 莉彩の中で、あのときの老人の言葉が甦った。
「そちらは、どうなさるおつもりですかな? このまま、大切なお方の手を放し、お一人でお帰りになっても悔いはないと?」
 莉彩は何か言おうとして口を開きかけ、押し黙った。
「人の縁(えにし)とは実に摩訶不思議なもの、厄介なものでしてなぁ、強い縁で結ばれておる者同士というのは、たとえ、どれだけ離れようと、互いに強く求め合い惹かれ合わずにはいられないのです。まっ、業というか宿命のようなものですな。当人のどちらかが意図的にその縁を絶ちきろうとしても、いずれまた、強い力で引き寄せられ、めぐり逢うことになる。お嬢さんご自身がよくよくお悩みになって出されたものであれば、儂はその結論については何も申しますまい。じゃが、今日、私の申し上げたことだけは、よく憶えておいて下され」
 老人の皺深い眼に憐憫の情が浮かんでいるように見えたのは、莉彩の気のせいであったろうか。

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